上杉謙信の故郷で地元に愛される酒を 『スキー正宗』という名はなぜ生まれたのか
『スキー正宗』という名前の由来は、100年以上さかのぼるスキーの歴史にあった。
上越市の高田地区(旧高田市)には古めかしくも温かい町筋が残る。雁木通りと呼ばれるアーケード街だ。その庇の奥には城下町時代の町家が風情ある趣を見せている。
雁木は冬の積雪時に通路を確保する雪国の暮しの知恵。地域の共同体意識から生れたものという。町家は現在、交流館や瞽女ミュージアムとして活用されているのも興味深い。
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■日本のスキー発祥の地を誇りに
武蔵野酒造は、こうした古き良き文化の面影濃い高田の街の商店街から少し進んだ、ゆったりと広がる住宅街に蔵を構えている。創業は大正時代、主要銘柄は『スキー正宗』。
「もともとは『越山正宗』というお酒を醸造していたのですが、昭和初期に改称したんですよ。なぜって、ここは日本のスキー発祥地ですからね」 と、常務取締役の小林尚さんは解説する。
明治44(1911)年、オーストリア陸軍のレルヒ少佐が高田の陸軍営庭で、日本で初めてスキー技術を指導した。陸軍越冬の技術として伝わったスキーはやがてレジャーとして民間に普及し、多くのスキー板メーカーが誕生したそうだ。
「高田には地場産業としてスキーが定着、スキーで町おこしをしようとスキー音頭やスキー踊りも誕生しました。そこでうちは主要銘柄を『スキー正宗』に変えたという次第です」
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■話題性豊かな『スキー正宗』
昭和初期に誕生した『スキー正宗』は、滑るように喉を通り、それでいて淡麗すぎず、じっくりと味わえる酒がコンセプトだという。
「当社は飲み飽きしない酒造りをモットーにしてきました。辛口や甘口になりすぎない、口に含んだ時の柔らかさを大切にして、普通酒から大吟醸までを造っています」と小林常務は話す。
その酒蔵の味の基礎となっている銘柄が『スキー正宗』で、『越山正宗』をベースとして、それでいて淡麗すぎず、じっくりと味わえる酒」をコンセプトに仕上げている。
この銘柄には特筆すべきエピソードがある。戦時中は外国語である「スキー」という言葉が使えず、やむなく『寿亀正宗』と表記した。苦肉の策だったが、市場では「縁起がいい名前」と歓迎されたそうだ。
戦後は再び『スキー正宗に』戻ったが、今度は地元から選挙のお酒には使えないとの苦言。 「滑ってしまうからだそうです。当社では滑り込みセーフのエール酒ですよ、と応戦していますが」と常務は笑う。 いずれにしても話題豊富な銘柄だ。