今よりも未来を見据える「米百俵」の精神で 奥ゆかしくも新潟プライドを守る栃倉酒造
「全量純米蔵」に加えて、使用する全ての米を酒米にするという挑戦も。
「ん、おいしい。このカテゴリーのお酒にしてはきれいすぎる」。そう思ってスペックを確認するときっと驚く。「57%磨きの本醸造」や「五百万石100%の普通酒」。
長岡市郊外の大積地区にある栃倉酒造の常務取締役・栃倉恒哲さんは、当たり前のように説明する。
「高いお酒が美味しいのは当たり前ですよね。普段飲むお酒が美味しい、そうなって初めて価値があるというか、意味があると思うんですよ」
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■米百表の精神を受け継ぐ
小泉純一郎元首相の所信表明演説でも取り上げられた「米百俵の精神」が生まれた舞台は、長岡。戊辰戦争で破れて焦土と化し、石高も減らされた長岡藩の窮状に、支藩から救援の米が贈られた。
「これでお腹が満たされる」と藩士は喜んだが、藩の大参事だった小林虎三郎が、将来の人材育成のため藩立の『国漢学校』を開設する資金に充てる。
国漢学校はその後の長岡洋学校の前身で、現在の県立長岡高校へと受け継がれて、山本五十六など数多くの秀才を輩出してきた。
1904年創業の栃倉酒造は、目先の満足ではなく先々の成長を考慮した行動を取る精神を酒造りに活かしていこうという思いから、酒銘につけた。
先を見越した選択は、たとえば純米酒の製造だった。今でこそ熱狂的なファンも少なくないが、栃倉酒造はすでに40年も前に純米酒の製造を行っていた。 そして次に考えていることは、さらに思い切った挑戦だ。
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■次は「全量酒米使用」の酒蔵に
「2016年の造りから、すべて酒米にしたんですよ」と栃倉さんは、淡々と語る。 吟醸系はもちろん普通酒まで、造るお酒は全て酒米使用になるというのだ。
「お酒って酒米で造られてるんじゃないの?」と思う方も多いかもしれないが、飯米に比べて酒米は高価。
そのため、低価格帯のお酒では、麹米は酒米でも掛け米に飯米を使う製法のほうが一般的と言える。特別なブランド米を除けば、飯米は酒米に比べ格段に安く仕入れられるため、製品の価格を抑えることができるからだ。
ただし、飯米には雑味の元となる要素も多いため、多めに磨くなどして、質を高める工夫をしている。この技術代は価格に反映されない。
「全量酒米で造るとなると、もう少し軽やかな酒になるだろう」という。しかし、高くつくということも確か。それに見合うほど価格を上げられるのか。そこには「新潟の常識」がある。