ブームの中で「注意喚起」も出た熟成肉 明治大学と微生物を研究した飲食店の挑戦

美味しい熟成肉を安全安心につくるため、微生物について大学と共同研究を続けた結果…

2018/03/29 13:00


 

■欧米流のドライエージングとの違い

旬熟成

跡部さんが、ヘリコスチラム菌に注目した「発酵熟成」の方法は、欧米などでは一般的なドライエージングとは異なる。

跡部:米国ではチルド状態で風をあて、数ヶ月熟成させるドライエージングが行われています。おもに牧草で育つアンガス牛は、日本の黒毛和牛と違って脂肪が少なく赤身が多いため、水分含有量が高く乾かしたほうが美味しくなるためです。


またアンガス周辺は乾燥地帯で、菌があまり豊富でなかったことも理由かもしれません。


湿度が高い日本では発酵文化が発達し、さまざまな菌が存在します。肉をそのままぶら下げて熟成していくと、空気中を漂う菌の胞子がつくわけですが、理想的な菌だけでなく腐敗菌もつく可能性があります。


美味しく安全な熟成肉をつくるためには、腐敗菌や食中毒の原因となる菌を増やさず、酒や味噌をつくるときのように有用な菌だけを増やす必要がある。村上先生と跡部さんの研究は続いた。


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■有用菌の力をいかに活かすか

旬熟成

日本酒を醸すときは、日本醸造協会が頒布している『きょうかい酵母』を使用するのが一般的だ。肉の熟成においても、有用なヘリコスチラム菌をいかに安定して増やすことができるかがポイントになる。

跡部:菌を同定した後は、早く、安定して、誰でも熟成肉をつくれる方法を模索しました。肉に塗ったり、スプレーで噴霧したり試行錯誤した結果、菌を湿布のように貼るエイジングシートにたどり着いたんです。


熟成庫の中で、ただの布を巻いた肉と比較したところ、カビが肉を覆うのも早く、熟成が早く進むことも確認できました。菌同士でパワーバランスがあるため、有用菌が早く繁殖すると腐敗菌は増えることができません。


また、このシートを使うことで、それまで肉の外側の4〜5割くらいはトリミングして捨てていたのが、平均2割程度に抑えることも可能になりました。


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■注意喚起を逆に活かしたい

跡部さんは、都の注意喚起に対しても、むしろ前向きだ。

跡部:今回、熟成肉に対して東京都の注意喚起が出てしまったことについては、何かアクションを起こさなければいけないと思いました。


そこで、NPO法人として発酵熟成協会を立ち上げたいと考えています。これまでの連携体制に加えて、厚労省や東京都が受け入れて後押ししてくれたら、日本の肉食文化にとって面白いチャレンジになるんじゃないかな、と。


微生物を完全に排除するのはほぼ不可能ですから、菌と発酵・熟成のメカニズムを理解・啓蒙することが大切。それによって安心安全な熟成肉を販売し、味わうことができるようになれば、今回の注意喚起は逆に良い結果につながるはずです。


発酵熟成は、肉を柔らかくしてアミノ酸などのうま味を引き出すため、子牛を産めなくなった経産牛など、肉が固くて市場価格がつきづらい肉でも美味しく味わうことができる。飼料価格の高騰に悩まされる農家にとっても福音だ。

跡部さんは、28日からMakuakeでクラウドファンディングを開始し、明治大学と共同開発したエイジングシートの普及を訴えている。

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(取材・文/しらべぇ編集部・タカハシマコト

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