往年の人気漫画『まいっちんぐマチコ先生』再ブーム 寛容な昭和性表現への懐古か
漫画からアニメ、映画、芝居、ミュージカル。『マチコ先生』の快進撃は今後も続きそうだ。
■行きすぎた性表現規制へのアンチテーゼか
「昭和のWikipedia」と評され、昭和文化に詳しいゲイレポーターにして昭和研究史家の酒井佑人さんはマチコ先生の懐古ブームを次のように分析する。
「昭和は性的表現に寛容な時代でした。ゴールデンタイムであっても、女性のバストやパンツが映し出され、深夜放送は大人の放送がたくさんあった。子供の頃に、親が寝ている時間帯に起き、音を絞って深夜番組を見て、オカズにしていた男子も多いでしょう。
マチコ先生のエッチなシーンを見て、性欲に目覚めた男性だって多い。しかし、今はコンプライアンスの時代。地上波は深夜であっても女性の裸を拝めることがなく、昭和を知る者にとっては、ある種のもの哀しさを覚えるのは当然。
少年誌も当然です。エッチな漫画は一掃され、萌え系エッチの作品であっても乳首を描写できない。エッチ全快のマチコ先生が今も支持されるのは、コンプライアンスにがんじがらめにされた現在のテレビや漫画誌へのアンチテーゼであり、性表現が寛容だった昭和へのノスタルジーです」
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■「#MeToo」運動は行き過ぎ
ハリウッド界で始まったセクシャルハラスメント告発運動「#MeToo」との関連を社会哲学に詳しく、政治的メッセージを発信する「才女グラドル」として知られるMasaminだ。
「『まいっちんぐマチコ先生』はセクシュアル・ハラスメントの拡大解釈や『#MeToo』ムーヴメントの暴走が社会問題になっている今日、まさに、それらの壁を溶かす『希望』と『福音』の重奏として観ることができる傑作です。
セクハラはもともと特定の地位や権力を利用して女性に性的関係を迫ったり、性的いやがらせをするもの。フランスで90年代にできた刑法としての『セクハラ禁止法』はこれら地位利用型セクハラを罰するもので、地位を利用して性的関係を迫ること自体が罪とされた。
『#MeToo』も本来は、映画プロデューサーという絶対的権力を得た者が、女優に対して性的関係や性的嫌がらせをしたものであって、これは地位利用型セクハラであって、社会通念上、到底、許されるものではない。
ところがどうしたことか、『#MeToo』追及は暴走し始め、女性の裸やセクシーな姿を描いた芸術にまで標的を定め、攻撃していっている。レースクイーンは廃止に追い込まれる方向になった。
これは、セクハラとは何の関係もなく、守旧フェミニズムによる『女性の性の商品化』批判の復活・焼き直しであり、表現の自由を著しく狭めるものです。
アメリカでは2000年代に女性フェミニスト法学者による『ディフェンディング・ポルノグラフィー』(ポット出版が邦訳を刊行)が上梓され、『性の商品化』批判フェミニズムは理論上、完全に論破されたのです。
もしも、レースクイーンが女性だけだから性の非対称性で許せないというのであれば、ガチガチムキムキ男子の『レースキング』を共演させればいいのであり、女性にとっても、あるいはゲイにとっても、目の保養になるでしょうから、そちらのほうが健全です。
性的表現を許さない動きは、かつてはマッカーシズムに顕著に見られ、欧州では米国流の性的ピューリタニズムとして軽蔑の目を向けられてきた。
そんな社会状況がある中で、『まいっちんぐマチコ先生』が現代に復活したことはたいへんに意義深いものがあります。『これくらいのスケベは許容可能だよね』という風潮になることを願っています」
■カーマニアには「マチコファン」多数
最後に『マチコ先生』について語るのは、先天的なろう者でトランセクシャル女性の芽衣子さんだ。その経験をもとに、全国で手話やろう者、LGBTへの理解・啓発を促進する講演を行っている。
芽衣子さんはタレントの佐藤かよさんを模した痛車(佐藤かよ公認)の所有者で、カーママニアのイベントがあれば、遠くは秋田県まで首都圏から参加するほどの車狂である。
「日本唯一のオールジャンルカスタムカー情報誌『カスタムcar』2016年10月号はマチコ先生が表紙を飾り、特別付録として、まいっちんぐマチコ先生特別描き下しステッカーという超豪華版付録が付いてきました。
70年代から80年代の車を所有するカーマニアはほぼみんな貼っていますよ。カーマニアにはなぜか、マチコ先生ファンが多い(笑)。じつは私も持っていますが貼っていません。希少レアなのでコレクションとして飾ってあります」
11月10日からは東京・R’sアートコートにて「ミュージカル・まいっちんぐマチコ先生~画業45周年だよマンガ道~」が上演される。漫画からアニメ、映画、芝居、ミュージカル。『マチコ先生』の快進撃は今後も続きそうだ。
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(取材・文/France10・及川健二)