『おぼっちゃまくん』『ゴーマニズム宣言』の小林よしのりが語る「平成の天皇論」
数々のヒット作を持ち、論客として知られる漫画家の小林よしのり氏にロングインタビュー。
■保守は漸次的に変わるもの
———美智子皇后とご成婚なさるとき、保守・右翼が一斉に反対した姿に重なりますね。
小林:美智子皇后とご成婚なさるとき、保守は反対した。「民間人と結婚なんてけしからん」「粉屋の娘ごときと結婚して」と。それが、いまでは皇后陛下と言ったら、聖母マリアみたいな感覚すら(国民は)持っている。
常に「保守」という側がまったく天皇を理解していない。似非保守ですよ。明治の時の感覚に固執してしまっていて、保守というのも時代のバランス感覚をとらえて、変わるべきところは漸次的にも変わってもいかなければならない。
そうでなければ伝統は残らないということが、分からない。天皇陛下は分かっている。天皇陛下はバランス感覚が優れた伝統主義者です。「天皇、天皇」といっている連中がまったく伝統を分かっていない。
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■英国のオーディエンス制度
———『よしりん辻説法』で英国王室のオーディエンス(謁見)を描かれましたね。つまり、象徴の女王として、首相にモノをいうべきことはいうが、首相はそれを断行する義務はない。ただ、博識な知識から発せられる女王の意見は聞くに値する。だから、首相も、言われたとおりする義務はないが、意見には耳を傾け、時には政策に取り入れる。日本もオーディエンスをやったらどうかと思いますね。
小林:わしも必要だと思う。わしはロボット天皇論の立場でない。政治利用だけすればいいというのは、天皇も皇族も人間だから、限界が来てしまう。
天皇というのは歴代の政権や政治家、首相を見てきている。もっと過去の政治も勉強して、頭の中に入っている。知識の宝庫だから、(天皇から意見を聞かないのは)もったいない。
沖縄県民だって琉歌を詠める人は限られているのに、今上天皇は琉歌だって独学で覚えて、詠めるわけですからね。とんでもないほどの知識があるわけだから、ご意見を聞かないのはあまりにももったいない。
イギリス王室のように首相が相談に行って、天皇陛下のご意見を聞く。それは全然おかしくない。左翼から(安倍首相のブレーンの)八木秀次・麗澤大学教授のような保守派までそれが憲法違反だというわけだけど、『君臨すれども統治せず』という言葉があるように、(天皇が)統治しなければいいわけです。
首相は相談しても、決めるのは首相です。それを拝聴して「なるほどな」と思って政策を変えるのは、天皇主権になるわけでなく、何も問題ない。意見を聞いて変える変えないは統治者である首相の自由です。そこまでやって、立憲君主制の意味が出てくる。
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■世界に誇るべき象徴
———日本の天皇というのは、常に象徴的存在でした。しかし、今上陛下ほど、象徴とは何かをお考えになり、象徴に徹された天皇はいなかったと思います。
小林:陛下自身にとってみても、象徴ってものかどういうもとであるかとずっと考えてきたということはおっしゃってましたし、それで結果として、こういうものだったということは言ってません。
結局、象徴のなんたるかは永遠に考えていかなければいけないことでしょうし、たしかに象徴・シンボルというものは非常にわかりにくい言葉だから、どうやれば「国民統合の象徴」、つまり日本人すべての象徴になれるのか…………を追究するのは、やはり大変なことだと思いますよ。
日本人にとって一番良識的な部分・倫理的な部分は天皇に託してしまっているわけで、普通の日本人はああいう優しい感じの方がいらっしゃってよかったなぁとか、品位を保ってくれる方がいてよかったと思っているだけだ。
国民はそう絶対に思っているはずなんですよね。天皇がいなくなったら、トランプが出て来るわけなんですよ。アメリカは暴言だらけで、差別感情をむき出しにする。
そういうのが自分たちのトップであるわけです。それは恥ずかしい。そういうひどい発言を続けているのが元首になっちゃうわけだ。
でも日本は天皇陛下が世界に向かって恥ずかしいとか誰も持ってないからね。むしろ世界に誇るべき象徴だと、 思っているわけだ。そう思えるように行動して来られたということは普通の人間ではできない。わし、なんか絶対いやですよ(笑)
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(取材・文/France10・及川健二)