『おぼっちゃまくん』『ゴーマニズム宣言』の小林よしのりが語る「平成の天皇論」完結編
漫画家の小林よしのり氏に聞く「平成の天皇論」。「被災地ご訪問」や「平和の旅」など今上天皇陛下の活動をどう見たのか。
■死者の気持ちも汲み取る陛下
———今上陛下の「平和の旅」とも呼ばれる、たとえばサイパン訪問・ペリリュー島訪問などをどうご覧になりましたか。
小林:人々は死者のことをまた忘れる。死者の気持ちも忘れないという天皇が持つ感覚も、これも日本人には往々にしてない。死んだ人のことは全部忘れていいと思っている。
死者の気持ちを汲み取る……というところまで天皇がなさる。死者も参加する民主主義という本来の保守が持つ感覚です。わしも『戦争論』(1998年)を書く前までは、死者とりわけ戦死者のことは忘れていましたからね。
あれを書くときに死者の気持ちを一所懸命、くみ取って書いた。それは学術論文には至っていないけれど、死者が遺した言葉が遺書とかたくさんあるわけです。
それを全部読んで、死者がどのような気持ちだったのかを想像して、『戦争論』を書いた。過去は全部悪で嫌いだから思い出したくもないという人にとっては、衝撃の書だったでしょう。
国のために亡くなられた方々の上にいまの日本が成り立っているということぐらい、大人になったら知らなければならない。そのことをずっと考えていらっしゃるのが天皇で、慰霊の旅はたいへんに有り難いことです。
そういう天皇の振る舞いを見て、誰かが戦争中の兵隊がどのような気持ちだったのだろうかとか、そのときに犠牲になられた住民はどういう感覚だったのだろうかとか、思いが至るようになって、自分も勉強してみようという人が出てくるかもしれない。
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■戦中派の思いを引き継ぎたい
———『戦争論』を描かれたときは、まだ、戦中派がご存命でしたね。
小林:時代はあっという間に過ぎてしまいますね。今年で『戦争論』を書いてから21年。20年経ったらそのとき、70代だった方はほとんどがお亡くなりになっていますね。戦争論を書いたときは、戦地に行った戦中派がたくさんいらっしゃった。
そして、わしはたくさんのことを戦中派から教わりました。戦争論を読んで、戦中派から励ましの手紙が来たり、『私の戦地での日記を送ります』と送ってきたりする人たちがいました。おそらくほとんど亡くなっているでしょうね。時が過ぎゆくのは早い早い。
これから20年経ったら、わしはもう80歳、超えているよ。さすがに漫画は描いていなくて、生きるか死ぬかの瀬戸際かもしれない(笑)。20年っていうのはそれくらいに早い。誰かが戦中派の人の思いを伝えていかなければならない。
『戦争論』を読んだ人は『戦中派』の魂が宿っているかもしれない。そういう人たちが自分の子供たちに読ませてくれたら、戦中派の人たちとのつながりが脈々とつながっていくかもしれない。それに期待するしかない。
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(取材・文/France10・及川健二)