シングルマザーとその子供たち。貧困の連鎖を断ち切るために、いま必要なこと。

「ひとり親世帯」の子供たちにおける貧困の実状と様々な課題に迫る。

提供:内閣府

2022/03/03 11:30

子供の貧困問題でも、特に苦しい生活を余儀なくされるケースが多いのは、いわゆる「ひとり親世帯」の子供達だ。両親の離婚や死別により、保護者の収入が減少したり、保護者と過ごす時間が持てなかったり、さらには保護者の病気により就労が困難になったりするなど、そうした要因が重なると、子供は益々厳しい状況に陥りやすくなる。

それは、子供の保護者が母親であるか、父親であるかにかかわらない共通の課題だ。ましてや、配偶者などによる暴力、いわゆる「ドメスティックバイオレンス(DV)」からの避難など、準備する間もなくひとり親世帯にならざるを得なかった場合の子供への影響は、深刻なものになりかねない。

今回、「ひとり親世帯」の中でも、深刻な問題を抱える「シングルマザー」やその子供の支援に取り組む現場の実状に迫った。

 

■家を追われた子供とその母親。「暴力をふるわれたのは私なのに……

「頭金もローンも半分ずつ払っているのにマンションは名義上、夫のもの。離婚が成立しないといろいろな手続きもできない。でも会って話をしようとするとまた太ももを蹴られるんです。弁護士を雇うお金なんてない。ちょっと、疲れました」

そう力なくうなだれたのは、東海地方で暮らしていた浩美さん(32歳/仮名)だ。度重なるDVを受け小学1年生の息子の手をひいてマンションを飛び出した。浩美さんは首をかしげる。

「あの家は夫だけのものではないはずです。小学校に入学したばかりの息子だって友達ができたのに転校させるのは可哀想で。どうして暴力をふるわれたほうが家を出ていかないといけないんですかね? 地元の役所も話は聞いてくれますが、最終的には『一度、話し合ってみたら』と言うばかり。話し合いができないから困っているのに……」

北海道出身の愛梨さん(25歳/仮名)は、2018年に5歳年上の男性と結婚し、翌19年に男の子を出産した。首都圏で結婚生活を送っていたが「旦那への違和感を抱いたのは、息子が乳離れをしたくらいの時期でした」と話す。

「最初は『その服、母親にしてはちょっと派手なんじゃないかな』くらいの感じだったのですが、ママ友とファミレスで話し込んで帰ると『母親としての自覚が足りない』としつこく言われるようになりました。

息子の肌着を洗う石鹸は無添加にしろと命じられ、スーパーのレシートをチェックし『なんでおはぎなんて食べてるんだ』と怒られました。私が怯えているのを見て息子が泣き出すと、私の躾が悪いとまた怒られるんです」

最終的には買い物は夫がすべてこなし、家計は完全に管理された。愛梨さんには毎日、400円だけチャージされた交通系ICカードが渡されることになった。愛梨さんはママ友から「それ、完全にDVだよ」と指摘されてやっと自分の陥った状況に気づいたという。

「殴られたことはありません。怒鳴ったりもされないのでDVという言葉が浮かんでこなかった。私は高卒で仕事はアルバイトをしたぐらいでしたので、むしろ旦那は私に世間一般のことを教育してくれているのかなと感じていた部分すらあった」(愛梨さん)

さらに携帯のGPS機能で常に居場所を把握されていたことを知って、2歳に満たない息子を抱えて逃げるように家を出た。

いずれのケースも、母親、そしてその子供への影響は計り知れない。

 

■神戸の母と子のためのフリースペース

内閣府男女共同参画局が2021年に公表した「男女間における暴力に関する調査」(※1)では、既婚女性の約4人に1人が配偶者から暴力を受けたことがあるという。

離婚した場合、母親が親権を持つケースが多いが、その一方で冒頭の浩美さんのケースのように、住居や生活が必ずしも確保されないのが現状だ。新型コロナウイルス関連の支援金や給付金を世帯主が受け取る場合、本当に現金が必要な子供やその保護者まで行き渡らないという事例も見られる。

「夫婦間でトラブルが起きて男性に非があった場合も、住居を追われるのは女性の側になりがちです。根本にあるのはやはりジェンダー格差です。社会全体で向き合わないといけない根深い問題ですね」

そう指摘するのは、母子家庭の子供とその母親の支援を包括的に行うWACCA(わっか)プロジェクトの小畠麻理さんだ。

同プロジェクトは、DV被害や社会的要因などで困難な状況に置かれた母子をシェルターで保護し、生活再建までの支援をする、認定NPO法人「女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ」(兵庫県神戸市)から派生したものだ。

シングルマザーと子供の支援を行うWACCA(わっか)のスタッフのみなさん

WACCA代表の茂木美和子さんはプロジェクト設立の経緯を話してくれた。

「シェルターの原則は2週間しか滞在できない、いわば一時避難です。その後、社会にまた入っていこうという時に、実際にシェルターに入っていた母親に『何が欲しいですか? どういう支援があったらいい?』と聞くと、『気軽に足を運べる居場所』という返事が多かったんです」

WACCAは、神戸市長田区の大正筋商店街にひとり親家庭の交流の場として2013年に開設され、以後、オープンスペース「WACCA♭」(わっかふらっと)として、平日の火曜から金曜日の10時から17時の間は誰でも立ち寄れる場所として常時、開放している。

2021年11月にはさらに広い場所に引越した。「入りやすさを意識した」と茂木さんが話すように、カフェのような外観にある外扉を開くと内部には白を基調とした明るいスペースが広がる。その中で子供が宿題をしたり、その母親がお茶を飲んだりおしゃべりを楽しんだり、思い思いの時間を過ごしている。区役所や学校に提出する書類を、スタッフに相談しながら記入している外国籍の母親の姿もあった。

 

■世代を超えた貧困の連鎖を断ち切るために

入りやすさを意識したカフェのような外観
小学生から中学生を対象にした無料学習支援も、週3回行っている

「住所や年齢、国籍など特に縛りはありません。どなたでもどうぞ」茂木さんはそう笑う一方で、ひとつだけ「大きな声を出さないこと」というルールの存在を教えてくれた。

それには理由がある。数年前、不審者が施設内に入って来ようとしたことがあった。茂木さんは振り返る。

「私が思わず強い口調で『出ていってください!』と注意したら、そばにいた男の子が怯えてしまったことがありました。DVを受けた経験のためか、誰かが誰かを責めると『次は自分の番かも』と思ってしまうのでしょうね。だから大きな声や誰かを責めるような口調だけは避ける。それが唯一のルールです」

他にも、一人でないと食事を摂れない。帽子を被ってないと落ち着かない。背後を誰かが通ると緊張するといった、日常生活に小さな困難を抱える子供は少なくない。

「それも一種の貧困なのかもしれません」と茂木さんは指摘する。怖い思いをしてきたり、複雑な家庭で育ってきたりしたケースではその経験が世代を超えてしまう、つまり母と子、さらにその先の世代まで恐怖や負の感情が連鎖してしまうことがあるとし、「それは絶対に断ち切らないといけないこと」と力を込めた。

「暴力を受けた子供は、他者とのコミュニケーションの取り方を知らないことも多い。あるいは暴力がコミュニケーションだと錯覚しているケースもあります。貧困というとまず経済的なことを想像する人が多いかもしれませんが、そうした負の感情、コミュニケーション不足、社会や地域からの孤立も貧困の一種です。社会や人との付き合いの場を提供して、そういった貧困もここで少しでも解消できたらと願っています」

WACCAでは前述のWACCA♭(ワッカフラット)に加え、小学生から中学生を対象にした週3回の無料学習支援も行っている。

「学校の成績が上がっただけで貧困が消えるわけではありませんが、勉強は貧困の連鎖を断つためのツールのひとつにはなってくれます。子供たちが、ボランティアで来てくれる社会人や大学生に自分の将来像を見出してくれるといいなとも思っています。ほんの少しでいいから」(茂木さん)

 

■清瀬市にあるシングルマザーの「第二の実家」

住宅地の中に佇む「ウイズアイ」が運営する「あいあいの家」。活動イメージは「第二の実家」だ。
ひんぱんに開催される「離乳食講座」などのイベントも人気だ

シングルマザーにとって、「育児と仕事の両立」は大きな課題の一つだが、東京都清瀬市の「特定非営利活動法人ウイズアイ」は「働く女性の強い味方になってくれる」と、シングルマザーの間で話題だ。

フルタイムで働いていた女性が、離婚をきっかけに働ける時間が限られるようになったため、給与が減ったり、離職や転職を余儀なくされたりしてしまう、残念ながらそんなケースは少なくない。

ウイズアイの軸となる活動のひとつである保育事業「あいあいの家」は、そんなシングルマザーのために、不規則な仕事や勤務形態、土日祝日などの保育園が空いてない時間にもフレキシブルに対応する。

「親のキャリアや子供の成長段階など、ひとり親世帯の事情は様々ですから、個々に寄り添ったサポートをしてあげたい。親が安心して働くことができれば、子供も安心して暮らし、成長していけると信じています」。

そう語るのは「あいあいの家」の責任者、増田恵美子さんだ。

「あいあいの家」は、2008年のオープン以来、「第二の実家」のイメージで活動をはじめ、週に1度からでも利用できる一時保育や、母親の夜勤や出張、緊急時などのお泊まり保育も可能。料金は9時から17時が3500円、18時から翌9時までが2食ついて5000円。ベビーシッターの時給の相場が1000~2000円と考えると、破格の料金設定だ。

「それでも、もう少し価格を抑えたいんです」と増田さんは表情を曇らせる。

「夜勤のシングルマザーにとって、決して5000円は小さな額ではないと思うんですが、どうしても家賃や人件費といったランニングコストはかかります。子育てクーポンがもらえなくなると、ぱったりと利用がなくなってしまう親子もいて」

子育てクーポンとは、清瀬市が発行する「清瀬市子育て・ キラリ・クーポン券」だ。未就学児1名に対して1万円分を、公営、民間問わず子育てサービスなどに使用できる。

他にも清瀬市は、廃校となった旧都立清瀬東高等学校校舎を生涯学習、スポーツ、福祉活動などの市民活動の拠点施設「清瀬市コミュニティプラザひまわり」として開放した。ウイズアイもここで2011年から定期保育「プレイルーム」を展開している。

「いずれにしても、作らないといけないのは居場所と受け皿です。シングルマザーの多くが不安を抱えていて、その不安は子供にも伝わってしまうことも多いんです。だからお母さんにもお子さんにも『大丈夫だよ。好きなことしていいんだよ』と肯定する言葉をかけてあげるようにしています。ここ数年はコロナ禍で会えない時間もあるけれど、『ウイズアイに行けば話を聞いてくれる』と母と子供が思っていてくれたら嬉しいですね」

今後、コロナ禍が収束の兆しを見せたら子供食堂や親子で参加するイベントを増やしていきたい一方で、やはり寄付を求める活動も不可欠だと増田さんは言う。

「以前にいただいた『子供の未来応援基金』の支援金は、事業の継続拡大に有意義に使わせていただきました。今後は、現行の他制度をうまく活用する形で、定期的に寄付や収入を確立していかないといけません。母子家庭にはそれぞれの家庭の事情があるから、その親子ごとに悩みを共有できるスタッフがいてくれるのが理想です。ヘルパーや保育士、ソーシャルワーカーといった専門職の方など、頼りたい人は大勢いますので母と子どもの未来を守るために多くの人に話を聞きたいですね」

旧都立清瀬東高等学校校舎を有効活用。定期保育「プレイルーム」はこの中にある。

 

■必要なのは地域との連帯感「まずは相談を」

警察庁の「犯罪情勢についての暫定値」(※2)によると、2021年に児童相談所に虐待の疑いがあるとして通告された18歳未満の子供の数は10万8050人。過去最多となった。コロナ禍での外出自粛による被害の潜在化など、コロナ禍との相関の可能性に触れた報道もされた。

内閣府が2021年末に発表した「子供の生活状況調査の分析」(※3)によると、ふたり親世帯に比べてひとり親世帯には厳しい状況にある世帯が多いことがうかがえる。

暮らしの状況を世帯の状況別にみると、「苦しい」と「大変苦しい」を合わせた割合は、ふたり親世帯では 21.5%であるのに対して、ひとり親世帯では 51.8%となっている。

また、過去 1 年間に必要とする食料が買えなかった経験があった割合は、ふたり親世帯の8.5%に対して、ひとり親世帯では 30.3%となっている。

同様に、過去 1 年間に必要とする衣服が買えなかった経験があった割合は、ふたり親世帯の 13.1%に対して、ひとり親世帯では 38.9%となっている。

※内閣府「令和3年 子供の生活状況調査の分析」報告書より作成

子供の貧困問題を抱える家庭の中でも、より深刻な状況に陥りやすいひとり親世帯。その背景には、様々な社会的課題が山積している。

神戸のWACCA、清瀬のあいあいの家、取材中に支援対象の保護者やその子供をはじめ、支援者やボランティアなど人の出入りは活発だった。電話も頻繁に鳴る。そのたびに茂木さんも、増田さんも笑顔を絶やさずに丁寧に対応する姿が印象的だった。増田さんは言う。

「一時的でもとりあえずでもいいから、まずは相談してほしい。そのために私たちはいるんだから」

ひとり親の生活の基盤を生むために、その先にある子供の未来を守るために、今日も東西の駆け込み寺はフル稼働だ。

※.1. 内閣府「 男女間における暴力に関する調査(令和2年度調査)」

https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/r02_boryoku_cyousa.html

※2.警察庁「令和3年の犯罪情勢暫定値」

https://www.npa.go.jp/publications/statistics/crime/situation-reports.html

※3.内閣府「令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書」

https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/chousa/r03/pdf-index.html

※取材対象者のプライバシーと安全を保護するため、一部、事実に手を加えて紹介しています。

※新型コロナウイルスの感染状況により活動内容や営業時間が変更されることがあります。詳しくは各団体のHPをご参照ください。

女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ

https://wn-kobe.or.jp/outline-of-support/

ウイズアイ

https://www.with-ai.net/

子供の未来応援国民運動

https://kodomohinkon.go.jp/

DV相談+

https://soudanplus.jp/

~本記事に登場する支援団体は、「子供の未来応援基金」の支援実績がある団体です。同基金 は、企業や個人の皆様から広く寄付を募る活動です。寄せられた寄付金は、公募・審査・選定 の上、支援団体の運営資金として提供され、学習支援を行う団体や子供食堂、フードバンクな ど、全国の支援団体の様々な活動に役立てられます。皆様からのご支援をお待ちしておりま す。詳しくは、下記サイトをご覧ください~

子供の未来応援国民運動

https://kodomohinkon.go.jp/

(取材・文/竹田聡一郎・編集/Sirabee編集部 提供:内閣府)

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