全町民が一時避難した福島原発近くの町から世界へ 『とみおかワインドメーヌ』の挑戦
昨年度は564本、今年はフルボトル換算で1,500本ほどの生産を目指すという。
■海沿いの気候を活かして
取材班が訪れたのは、JR富岡駅を見下ろす高台にある小浜圃場。ぶどうは、ちょうど花が開いた状態。花といっても花びらはなく、この小さな一粒一粒が果実となる。
海に隣接しているため、太平洋からの潮風や海霧など内陸の畑とは異なる気候条件も多いそうだ。塩害も心配になるが、これまでのところ生育に悪影響は出ていない。
一般的に、ワイン用ぶどうは食用のぶどうと比較して皮が薄い。しかし、とみおかワインドメーヌのぶどうは皮が厚くなる傾向があるという。
担当者は、「潮風などの影響で、植物の防衛本能から厚くなるのかもしれませんが、ワインの香り成分はじつは皮の部分に多く由来する。独特な香りのワインになりそう」と期待を込める。
世界には、米カリフォルニア州のソノマやイタリアのアマルフィなど、海が近いぶどう畑から極上のワインを醸し出す地域も。崖下の海からの爽やかな風のおかげで晴天でも体感温度はそれほど高くなく、まるで地中海のような雰囲気だった。
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■世界に発信できる食文化を
とみおかワインドメーヌでは、今年3月までに町内3ヶ所の畑に4,993本のぶどうを植え付け。総面積は1.76haに及ぶ。その中で最も多いのは白ワイン用のシャルドネ。仏・ブルゴーニュ地方を代表する品種として、広く知られている。
メルローなど赤ぶどうも育てているが、シャルドネの他、ソーヴィニョンブランやリースリングといった白ぶどうの割合が多いのは、世界屈指の漁場である地元・常磐沖の海産物とのマリアージュを楽しんでほしいため、とのこと。
新しく誕生するワインともともとあった地元の食材が融合し、住民の帰還が進む町に世界に発信できる新しい食文化が生まれることを意図している。