撃墜された中国の偵察用気球、その性能と「役割」は? 見えてくる情報戦争の実態

【舛添要一『国際政治の表と裏』】中国の「偵察気球」がアメリカで撃墜された。2020年、21年には同様の気球が日本にも飛来していたが…。

2023/02/12 05:30

米軍のF22

中国の気球がアメリカ上空を飛行し、東海岸のサウスカロライナ州沖合で米空軍のミサイルによって撃墜された。アメリカは、ICBM基地のあるモンタナ州上空を飛行していることから、これを軍事偵察用のものと判断したのである。

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■気球「撃墜」に時間がかかった

しかし、撃墜によって地上の人や家屋に被害が及ぶのを避けて、海上部に移動するまで待ったという。このバイデン政権の対応について、野党共和党は、対応が遅いし、アメリカの領空に入ったことも非公開にしようとしたとして批判している。アラスカ付近の米領空に入ってから1週間も経つ2月4日になって撃墜したからである。

今回の事態で、ブリンケン国務長官の中国訪問が直前になって延期されたが、この訪中を実現させるために強硬な対応をしなかったのではないかとさえ憶測されている。


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■回収された残骸から何が分かるか

バイデン政権が洋上撃墜できるまで待ったのは、地上に落下すると粉砕されるが、洋上だとそのリスクが減り、情報収集を最大にできるという判断もあったという。残骸は海面上の1.5㎞四方に散らばっており、すでに回収が進んでいるし、また水没した機器の回収も急いでいるという。

今のところ、高さは約60メートルで、重さ約1トンの機器を搭載していたという。気球にはプロペラや舵が装着され、速度や方向を変えられる。また、ソーラーパネルによって電力を供給し、長時間の飛行が可能になっている。高度は約20㎞で飛行していたという。

その機器がどのような機能を有していたかは、今後の調査の結果を待たなければならない。中国側は、あくまでも民間の気象観測用気球だと主張しているが、どちら側の主張が正しいかはまだ判断できない。


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■日本でも同じような気球が観測されている

米国防総省によると、トランプ政権時代に3回、中国の偵察気球が米領空に短時間入ったことがあるという。また、昨年6月にハワイ沖に墜落した気球を回収し、解析したら、中国の偵察用気球であったという。

2020年6月に仙台市上空で、2021年9月には八戸市上空で確認されている。しかし、防衛省も特別な対応はとらなかったようである。敵地の偵察ということになると、航空機のU-2偵察機があるし、人工衛星を使って撮影する偵察衛星もある。今回の気球も、偵察機や偵察衛星と同様な機能を持つのみならず、米軍基地にある核兵器、レーダー、ソナーなどからの信号を収集していたのではないかと言われている。つまり、目だけではなく、耳の役割も果たしていたということである。

日本についても同様な偵察行動を展開していたとすれば、今後は要注意で、自衛隊が撃墜などの措置を講じることが必要になる。軍事目的ならば、明らかに領空侵犯だからである。

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