プーチンがぶち壊した欧露「パイプ経済」 相互依存関係は平和をもたらさないのか?
【舛添要一『国際政治の表と裏』】石油、石炭、天然ガス…エネルギー供給の多くをロシアに依存してきたヨーロッパ。アメリカは以前からその高依存の危険性を訴えていたが…。
■アメリカの反対
このようなソ連・西欧の動きについて、アメリカはソ連へのエネルギー依存の危険性を指摘した。エネルギー依存が政治的武器として使われ、外貨の提供はソ連を強化するという理由で、天然ガスパイプライン計画に反対したのである。
しかし、西ドイツやイタリアやフランスなどのヨーロッパ諸国はソ連と相互依存関係を築くことが逆に平和に繋がると主張した。そしてその主張を具体化したパイプライン計画は、ドイツ統一後もメルケル首相など歴代政権に引き継がれ、ウレンゴイ天然ガス田とフランス、西ドイツなど、西欧7カ国を結ぶパイプライン(全長5,500㎞)が完成し、1984年から輸送が始まった。
ヨーロッパ諸国が安価なロシアの天然ガスに目をつけたのは、エネルギー需要の高まりに対応せねばならなかったからである。ところが、エネルギー大国アメリカは代替エネルギーを提供することもなく、欧州を助けようとはしなかったのである。
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■相互依存関係は平和をもたらさないのか
こうして、ヨーロッパとアメリカの対立が解けないまま、2022年のロシアによるウクライナ侵攻を迎えたのである。この時点で、ヨーロッパは、エネルギー供給をロシアの石油、石炭、天然ガスに大きく依存していた。EU全体の対ロシア依存率は、天然ガスが45%、石油が27%であった。
ところが、ロシアのウクライナ侵略によって、「経済の相互依存関係が平和をもたらす」という考え方が否定されてしまったのである。EUは2027年までにロシア産エネルギー源への依存率をゼロにするという方針を決定した。プーチンの暴挙が、アメリカの主張の正しさを立証してしまったのである。
プーチンの国際法違反は、デタントの基礎となった相互依存関係を粉砕し、これからの国際秩序の形成に大きなマイナスとなっている。
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■執筆者プロフィール
Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。
今週は、「ウクライナ侵攻で大きく狂った欧露パイプ経済」をテーマにお届けしました。
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(文・舛添要一)