台湾・韓国有事で真価問われる防衛政策 ケタ違いの「邦人救出」は遂行できるのか

【舛添要一『国際政治の表と裏』】スーダン内戦の際、自衛隊は65人の在留邦人を退避させることに成功した。台湾有事、朝鮮半島有事が発生した際は“桁違い”の避難作戦が必要になるが…。

2023/05/21 05:45


 

■さらに法的整備が進展

次いで、1999年5月の自衛隊法改正では、在外邦人の輸送手段として新たに船舶及び当該船舶搭載のヘリコプターが追加された。

また、輸送の安全が確保されている場合にも、不測の事態に備えて、自衛官は自己や保護下の邦人を防護するために武器使用が可能とされた。そのために自衛官が携行する武器は、「拳銃、小銃又は機関銃に限る」とされた。

2007年1月の自衛隊法改正は、防衛庁が防衛省に昇格したのに合わせて、これまで「付随的な業務」とされていた在外邦人の輸送を自衛隊の本来任務とした。

2013年1月にアルジェリアで邦人に対するテロ事件が発生したことを受けて、11月に自衛隊法の改正が行われ、輸送対象者に「輸送の実施に伴い必要となる者(日本政府関係者、企業関係者、医師など)」及び「輸送対象者である邦人等に早期に面会若しくは同行させることが適当と認められる者(家族等の関係者)」を加えた。

また、民間機が行けない危険が存在しても、実施可能と判断すれば自衛隊機は行けるとしたのである。さらに、輸送手段として車両が追加され、自衛官が武器を使用することができる範囲を拡大した。


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■アフガニスタンでの失敗

その後、アフガニスタンから邦人などを避難させる事案が発生したが、結果的に成功しなかった。2021年8月、アフガニスタンの邦人避難のため、自衛隊のC2輸送機1機とC130輸送機2機がカブール空港に派遣されたが、日本人は空港までたどり着けず、1人を乗せただけであった。

この事態を受けて、2022年4月に自衛隊法が改正された。まず、輸送対象者である「邦人」の定義を拡大し、(1)邦人の配偶者又は子である外国人、(2)名誉総領事・名誉領事、在外公館の現地職員である外国人、(3)独立行政法人(JICA、JETROなど)の現地職員である外国人を含むとした。さらに、輸送手段については、「政府専用機の使用を原則とする」という規定が削除された。

スーダンからの邦人輸送が今回は成功したのは、以上のような失敗の反省と自衛隊法改正の成果が現れたからである。

今後の課題は、台湾や韓国の在留邦人を万単位の数で避難、救出させるにはどうするかという具体的シナリオを描き、その準備を始めることである。


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■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「防衛費増額」をテーマにお届けしました。

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(文・舛添要一

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