激安鰻チェーンが急増中、「味が良くて安い」そのビジネスモデルの秘密とは?
【鈴木貴博『得する経済学』】今年もまもなく土用丑の日。昨今、その鰻を安く美味しく提供する専門チェーンが急増している。…その秘密を追った。
「えっ、何々? なんでこんなにここの鰻は美味しいの?」
と家族が驚いているのは「鰻の成瀬」というチェーン店。その東京・練馬店に家族で出かけたときの話です。
来週日曜日、7月30日は土用丑の日。この季節、夏バテ対策のために鰻を食べるというのはひとつの日本の伝統です。とはいえ鰻の価格も年々高くなっていますよね。でもそんな時代だからこそ鰻を安く提供しようと様々なビジネスアイデアが誕生しているのです。今回はそんなリーズナブルな鰻専門店はなぜ増えているか、というお話。
■加工済み鰻はコスパが良い
一番高いカテゴリーの鰻といえば、当然のことですが天然の鰻を仕入れてそれを職人さんが割いて備長炭でじっくりと焼いてくれるうな重です。
一方で一番安いカテゴリーの鰻といえば中国から輸入した養殖ウナギを工場で焼いてタレをつけて真空パックにした商品。牛丼チェーンが夏場に提供する鰻丼はだいたいがこれで、コスパがいい理由は養殖と工場での大量生産というわけです。
さて、そんなコスパのいい鰻丼も悪くはないのですが、やはり夏場の鰻といえばお店で調理人が捌いて、店先で蒸して焼いた本格的な方でしょう。その香ばしい鰻をあつあつのご飯と一緒に口にしたいものです。
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■西の与助に東の成瀬…激安鰻チェーンが増えている
そこで近年、増え始めたのが鰻の専門チェーンです。「鰻の成瀬」以外にもいくつかの本格鰻チェーン店がありますが、着眼点は鰻専門にすることで牛丼店よりも本格的なうな重を手ごろな価格で提供することです。
私の地元・名古屋には「うなぎの与助」という鰻の専門チェーンがあります。このお店のビジネスモデルを例に、なぜ鰻の専門チェーンが安くおいしい鰻を提供できるのかを説明してみましょう。
名古屋では東京と違って鰻を蒸さずにかば焼きにします。そしてうな重だけでなくひつまぶしとして3種類の食べ方をすることも人気です。地元の人気店ですとそれが5,000円前後というのが常識なのですが、「与助」ではそれよりも半額以下の価格設定が話題になっています。
うなぎ半匹分のうな丼が1,200円、一匹分のうな丼が2,200円。一匹分をひつまぶしにすると2,300円ですから、老舗の鰻専門店と価格を比較すると格安です。
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■従業員を「職人」に育成するビジネスモデル
これだけ安くても調理方法は生のうなぎを仕入れて、店内で割いて串打ちをして調理してくれています。だから工場で作った加工品と違って与助の鰻は香ばしい。外国産のうなぎを使うこともあるそうですが、厳しい基準を設定しているとのことで、そこで妥協はしていない様子です。
ではなぜ老舗の鰻専門店よりも安く提供できるのでしょう。実は与助のビジネスモデル上の秘密は「専門の調理人を短期間に育成すること」にあります。
日本食の調理師さんはさまざまな食材を対象に、非常に幅広い調理技術を必要とします。ところが鰻専門の場合は、調理に必要な技術は3つだけ。割きと串打ちと焼きだけです。だからそこだけを集中して社員に教えれば比較的短期間で鰻専門の調理師さんを育てることができます。
そしてもうひとつ経営上重要なのが、生きたうなぎを注文にあわせてお店で割くシステムだとロスが出ないことです。仕入れた鰻を生かしておけばいいからです。