3月下旬、慣れない「auPay」で支払いを始めた理由とは? そこには東京都の取り組みがあって…
【得する経済学】普段はPayPayで支払いをする筆者が、3月下旬になって突然、普段使わないキャッシュレスを使い始めた理由は? 経済の仕組みをふまえて解説。
「支払いはauPayでお願いします」
と言いながら慣れない手つきでスマホを操作するのは私です。私の場合いつもPayPayばかり使っているので、他のQRコード決済などやったことないのです。
なぜこんなことになったのか? 理由は先月の記事でも紹介した「暮らしを応援!TOKYO元気キャンペーン」が始まったことから説明しなければなりません。3月11日から、東京都ではQRコード決済が使えるほとんどの飲食店や小売店で、QRコード支払いをすると“10%のポイント還元”になるというお得な制度が実施されているのです。
ちなみにこのキャンペーン、例外としてコンビニの大半は対象外になるのでご注意ください。理由はこの記事の後半で解説します。
※編集部注 今回記事で取り上げた「TOKYO元気キャンペーン」は本日23日で早期終了(当初は31日まで実施発表)となりました。
■キャッシュレスで10%還元の意義とは?
経済学的な解説をしますと年度末はお役所が予算を使い切る時期です。道路工事が増えて、毎日、道路の同じ場所を掘って埋めてを繰り返している様子は年度末の風物詩といっていいぐらいよく見かける光景です。
その点で同じ予算を使い切るのでしたら、こうやって都民に還元するのはいい施策だと思います。値上げラッシュで生活が厳しい都民には年度末の生活防衛にもなりますし、一方で小売店や飲食店にとっては消費喚起にもつながります。
そんなことから私も経済に貢献するために3月11日からはとにかくQRコードで決済するように、良い心がけを続けているのです。
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■キャンペーン初期にして「失敗?」
さて、キャンペーンが始まった最初の週末に家族プラス1名で食事に出かけました。鈴木家の場合はひとり部外者が加わると食事が豪華になる傾向があります。外面が大事、いや文化人としての印象を大切にしているのです。そんなことからその日の夕食の時間は楽しく過ぎ、支払額も2万円を超えました。
「これで2000ポイントも戻ってくるんだから東京都に住んでてよかったね」と言いながら帰路についたのですが、ふと心配になりました。「確か、上限額があったよな?」。
調べてみると「TOKYO元気キャンペーン」のポイント還元は3000ポイントが上限です。
「しまった。キャンペーン第一週ですでに残枠が5000円分ぐらいしか残っていない」。見栄をはらずに家内か娘に支払わせておけばよかったと反省しました。
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■キャンペーン上限の仕組みを解説
ここで解説します。この手のキャンペーンには必ず上限条件が設定されます。なぜならそうしないとポイントを出してくれる役所側の予算が確定しないからです。
一方で同じ家族でも、もらえるポイントは必ず個別になります。私の上限が3000ポイントなら、家内も3000ポイント、娘も3000ポイント。同じ家計でも家族全員あわせると9000ポイントまで枠が広がります。なぜならその方がシステム開発が簡単だからです。
もちろんその気になれば東京都は住民票の情報をもっているので、鈴木家のメンバーが誰なのかは情報として把握しています。それをPayPayに提供することで「世帯あたりのポイント還元が家族合計で3000円になるように設定しろ」みたいな仕組みは作ろうと思えば作れます。
国税庁と連携すれば理論上は「税金がいくら以下の人だけ10%還元」なんてこともやればできるはずなのですが、そういう「異なるデータベース同士を連携する」とシステム開発費が増える上にシステム障害リスクが高まります。
だから一番簡単なのは連携しないシステムを開発すること。その制約のおかげで私がポイント還元枠の上限を使い切りそうになった場合にも、家内や娘に支払わせることでまだキャンペーンに参加し続けることができるのです。
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■私自身にも救済の抜け道が!
さらにじっくりとキャンペーン概要を読むと、私自身の抜け道も見つけました。そうなんです。「TOKYO元気キャンペーン」はPayPayだけでなくauPay、d払い、楽天ペイの4社どのQRコード決済でも10%がもらえるのです。
つまりPayPayで3000ポイントの上限に達してしまった私が、もしauPayを使うとしたら? ルールではauPayでもさらに3000ポイントまでお買い物の支払いが10%還元されます。
こうして4つの支払いをすべて駆使すれば、最大12万円の支払いで12000円分のポイントがもらえるというのが公式ルールだったのです。
なぜこうなるのか? 皆さんももうわかりますよね。そうなんです。前述の通り異なるデータベース同士を連携させるとシステム開発コストが高くなるのです。ですから4社の決済方法それぞれを連携させずに、どれを使っても上限3000ポイントに設定したほうがコストがかからない。
最後に、冒頭にお話しした「大半のコンビニが除外される」理由も同じです。実は今回のキャンペーン、健康増進の観点からたばこをポイント還元の対象外にしています。そしてコンビニで支払う際にたばこの売上だけ除外しようとすると、コンビニの販売システムと決済システムを連携させる必要がでてきます。それを避ける一番簡単な方法が、コンビニを最初から対象外とすることだったというわけです。
さて、このような経済の知識から、わたしはキャンペーン2週目に入っても飄々とQRコード決済で10%還元の恩恵を楽しんでいます。
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■著者プロフィール
Sirabeeでは、戦略コンサルタントの鈴木貴博(すずきたかひろ)さんの連載コラム【得する経済学】を公開しています。街角で見かけるお得な商品が「なぜお得なのか?」を毎回経済理論で解説する連載です。
今週は「東京都のキャッシュレスキャンペーン」をテーマにお届けしました。
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(文/鈴木貴博)