砂糖が普及する以前の“幻のスイーツ”、調理工程に目を疑う 1300年前のエピソードが最高
砂糖が普及する以前、「甘葛煎」という甘味料が使われていた。その調理工程は何とも壮大なスケールで…。
■1,300年前のエピソードが最高
今回取材に応じてくれたのは、奈良女子大学協力研究員の前川佳代さん。まずは、甘葛煎がいつ頃使われていたのか聞いた。
前川さんは、「奈良時代初期の貴族である長屋王の邸宅跡で使われていたことが分かっています。全国で製造され、都へ運ばれました。甘味料として菓子や料理はもちろん、お香(薫物)に使う香材のつなぎや薬にも使用されていました」と説明する。
奈良時代初期ということは現在から約1,300年前になる。これほど昔から甘味料があったとは驚きである。
気になる味に関して、前川さんは「ツタから作った甘葛煎は、口にふくむと強い甘みを感じますが、瞬時にその甘さがなくなります。この甘さがスッと引く、というのが甘葛煎の特徴です。雑味がない、さわやかな甘みです」と話す。
■作る難易度の高さに衝撃
奈良女子大学には甘葛煎再現プロジェクトがあり、甘葛煎の研究をしている。研究を始めたきっかけは、2010年に大学院の授業で古代のお菓子を紹介したことだったという。その際、砂糖以前の甘味が話題にあがり、院生から甘葛煎を作って食べたいと提案されたそうだ。
翌11年、奈良女子大学のツタを使って再現することに成功。今回話題になったように、作る難易度は非常に高い。
前川さんからは、「まずは材料探し、地権者の了解を得る必要があります。そして、厳冬期に30人くらい集めて、木や壁からツタを剥がして、樹液を採りだし、煮詰めます。ツタの伐採と樹液取り出しが重労働です」「樹液の糖度は10~20度くらいなので、保存性を高めるために、煮詰めて75度くらいにします。1リットルの樹液を採ったとしても、10分の1の100ミリリットルにしかなりません。大人30人が8時間かけて、100ml作ります」という、もはや名作RPG級の裏話が寄せられている。
甘葛煎は、時間も手間もかかるため、滅多に出会えない「幻のスイーツ」と言って差し支えないだろう。ただ、昨年7月、奈良女子大学は飲食店や奈良県と共に、甘葛煎の味に近づけた「甘葛シロップ」を開発。10月には商品化を目指し販売を開始。イベントを通じて奈良の名物としてアピールしている。
奈良で「甘葛シロップ」を見つけた際はぜひ食べてほしい。
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■執筆者プロフィール
斎藤聡人:1991年生まれ。『Sirabee』編集部記者。
某週刊誌の芸能記者を経て現職に。旧ジャニーズネタなど、芸能ニュースを中心に様々なジャンルを取材する。
チェーン店からローカル店まで様々な飲食店をめぐり、グルメ記事も手がける。仕事も兼ねた毎日のドラマ鑑賞が日課。
今期の推しは、『95』(テレビ東京系)、『イップス』(フジテレビ系)、『アンチヒーロー』(TBS系)。
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(取材・文/Sirabee 編集部・斎藤聡人)