「足音に一目惚れしました」目や耳に障害持つ人たちの“恋バナ”を聞いてみた
好きな人の名前を見るだけで言い様のないときめきが体内を駆け巡った…。そんな初恋の頃も今は昔。大人になるにつれて、恋愛は複雑になる一方だ。“好き”というシンプルな感情だけでは、事が進まないのが現実である。
そこで今回、目や耳に障害を持つ方々に、彼らの“恋愛エピソード”を聞いてみた。おそらく一般的には知られていないが、豊かに恋をし愛を育む彼らの一面は、きっと恋愛における初心を思い出させてくれるだろう。
●「足音にね、一目惚れしたんですよ。」
視覚障害を持つ中田さん(仮名、男性)は、次のように語ってくれた。
「目が見えないとね、『どうやって人のことを好きになるんですか』って聞かれたことがあるんです。でもね、目が見えなくても一目惚れするんですよ。外見がわからないのになぜ?と思われるかもしれませんが、相手の足音を聞いて、僕は人のことを好きになったことがあります。
足音には、その人の性格が出ます。せっかちな人、おおらかな人、丁寧な人、優しい人、怒りっぽい人なんてことも、足音を聞けばなんとなくわかります。目が見えないぶん、音を聞き分けることに慣れてるんでしょうね。声を聞かなくても足音を聞けば誰か言い当てられますよ。
僕が好きになった人は、すごく丁寧で優しいということがわかる足音でした。だから、話す前から彼女のことがすごく気になっていました。今でも付き合っていますが、やっぱり彼女の足音が好きです。近くに来ると安心するし、嬉しい気持ちになります。」
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●「ふたりにしか分からない感覚は、ふたりの関係を強くするんです。」
聴覚障害を持つ大島さん(仮名、女性)は次のように語ってくれた。
「私は耳が聞こえないので、どんなものに音があるのか知りません。昔、駅のエスカレーターに差し込んだ窓からの光が、まるでエスカレーターを降りているように見えたことがありました。そのときに私は、“トントントン”と音がしたと思ったんです。人が階段を上り下りすると足音がするでしょう? それと同じように、窓からの光も音を立ててエスカレーターを降りているように感じました。
そのとき、私は彼氏と一緒にいました。彼も、私と同じ聴覚障害を持つ人間です。後で分かったんですが、彼も私と同じように『光が音を立てている』と思っていたそうです。そう思っていたことをお互い打ち明けたとき、他の人には分からないふたりだけの秘密を共有したような気持ちになりました。ふたりだけにしか分からない感覚で繋がったというか、絆がもっと強くなったような気がしたんです。」
繊細な感覚を持って丁寧に恋をする彼らは、筆者に対して次のようにも語ってくれた。
「生まれたときから見えない(聞こえない)ことがふつうだったので、不便だとか不幸だと思ったことはないんです。むしろ、まわりに“かわいそう”と言われることで“かわいそうな人”にされている気がしています。私たちは障害を持ちながら、ふつうに恋をして楽しく生きているんですよ。」
恋愛というのは、好きな相手とただ一緒にいるだけで満たされ、嬉しくなり、幸せを感じられるもの。
というのは“きれいごと”になってしまうかもしれないが、ただ一緒にいるなかで自ら何かを発見し幸せを感じている彼らの話を聞くと、プラスアルファを求め過ぎて“贅沢”になってしまっている自らの恋愛観を省みるという人も少なくないだろう。
積極的に相手の良いところを発見しようとする彼らの恋愛における姿勢に、学ぶところは大きい。
(文/しらべぇ編集部・河津愛美)