日本を襲う「鳥インフルエンザ」の脅威 拡散防止は不可能?
鳥インフルエンザが、列島を震撼させている。
新潟県と青森県で確認された、H5型鳥インフルエンザ。現地の農場では合計30万羽規模のアヒルやニワトリを殺処分している。
養鶏農家にとっては、血の涙を流すに等しい出来事だろう。農業は病原菌との戦争でもある。
また、鳥は空を飛ぶ。当たり前の話であるが、それ故に病原媒体の駆除は極めて難しい。だからこそ、全国の自治体は鳥インフルエンザの脅威に戦々恐々としているのだ。
■ペスト流行の理由
何かしらの小動物が病原菌を運び、人類に大きな損害を与えるという例は歴史上何度かあった。
最も大きな出来事は、14世紀ユーラシアにおけるペストの大流行だ。これは『黒死病・ペストの中世史(ジョン・ケリー、中央公論新社)』という本に詳しいが、要は人口増加に伴う都市衛生の悪化がネズミを増やし、ペスト流行に拍車をかけてしまったというもの。
「日本細菌学の父」北里柴三郎は、ネズミ駆除を一般市民に呼びかけた。これは「都市衛生の向上」を巷にPRする行動でもある。
しかし、ネズミはまだ駆除が容易なほう。4本足の陸上動物である上、ネズミを飼育して生計を立てている農家などないからだ。
関連記事:「インフルエンザの予防接種を受ける」30代女性の4割も コロナも心配で…
■ペストより鳥インフルエンザのほうが怖い?
敢えて繰り返すが、鳥は空を飛ぶ。ネズミ以上に行動範囲が広く、あっという間に国境をまたいでしまう。そういう意味で、鳥インフルエンザはペストよりも駆逐が困難かもしれないのだ。
しかも商用家畜として飼われている動物でもあるから、経済へ与えるダメージは計り知れない。ニワトリは全世界普遍の食用動物だ。イスラム教徒は戒律で豚の摂取を禁じられているが、その分鶏肉を大量に消費する。
国民の9割方がイスラム教徒というインドネシアでは、ニワトリの放し飼いが一般的だ。確かに日本でも「平飼い」という方法でニワトリを飼育している農場があるが、インドネシアでは住宅街の只中にある公園に家畜を放している場合も珍しくない。
また中国では、旧正月の土産に生きたニワトリを贈る習慣がある。里帰りの実家でそれを潰して調理するわけだが、そうしたルートから鳥インフルエンザが拡散する恐れも指摘されているのだ。
関連記事:40代女性の9割が「インフルエンザとコロナが不安」 同時流行を恐れ
■目の前にある「魔手」
現在のところ、鳥インフルエンザが鳥から人へ感染する可能性は極めて低い。
だが今のところ人への感染がなくとも、我が国の畜産業にとって脅威であることには変わりない。2010年に九州で発生した口蹄疫は、宮崎県の食用牛農家に莫大な損害を与えた。
新潟・青森での鳥インフルエンザ発生は、東京都民にとっても「対岸の火事」などではない。転換期に差しかかった日本の農業に、大きなヒビを入れてしまう可能性もある。
ニュースやワイドショーはASKAの逮捕で大盛り上がりだが、その脇で魔手を伸ばしつつある病原体に我々は注意を払わなければならない。
・合わせて読みたい→主婦の7割が「豊洲市場の食品」に不安 移転前からイメージ崩壊
(取材・文/しらべぇ編集部・澤田真一)