たけし・山田孝之の息詰まる攻防『破獄』実在の囚人がモデル
戦前から戦後の混乱の中、その超人的な肉体と巧みな心理操作で看守たちを欺き、破獄を繰り返した一人の男がいた――。
吉村昭の長編小説『破獄』(新潮文庫)が、今日4月12日夜9時テレビ東京開局記念日 ドラマ特別企画として放送される。
主人公の浦田進役のビートたけしは、3年ぶりのドラマ主演作で、初めての看守役。浦田をはじめ多くの看守たちを追い込む無期懲役囚・佐久間清太郎役の山田孝之、過去の確執から父へ素直になれない浦田の娘・浦田美代子役を吉田羊が演じ、共にたけしとは初共演となる。
また、佐久間と一途に想い合う妻・光(みつ)役を満島ひかり、網走刑務所所長・貫井千吉役を橋爪功、看守部長・泉五郎役を勝村政信、看守役の藤原吉太役を池内博之、野本金之助役を中村蒼ほか、松重豊、寺島進、渡辺いっけいら豪華キャストがそろった。
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■実在の脱獄囚がモデル
原作小説の『破獄』は、著者・吉村昭が実在の天才的脱獄犯・白鳥由栄について、元刑務官から聞いた話を基に執筆したと言われており、佐久間清太郎は実在した脱獄囚がモデルとなっている。
初の看守役の苦労を「自分はすごい猫背なんで、(胸を張りながら)かなりこうやるんだけど、こうやっちゃうと、セリフが言いづらくて、こんなん(猫背に)なって喋るのがクセだから、こう張ると息継ぎが難しくって」と会見で話したビートたけし。
共演者の演技と自らを比較し「あと周りがみんな上手いんで、困っちゃったんですよ。あまりにも自分がダメなのが見つかっちゃうとまずいんで、バレないようにバレないように」と笑いを交えて語ったが、原作の複数の登場人物が統合された人情派でありながら、職務を忠実に遂行する浦田役を巧みに演じている。
また、佐久間と看守たちとの攻防と並行して語られる、吉田演じる娘・美代子との関係は、あまり感情を表に出さない浦田の人間性を表すシーンとして、効果的に登場する印象だ。
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■脱獄するのは…
会見の中で山田が「たぶん撮影期間中に、一番台本を読んでいたのは、光と浦田の会話のシーン」と語ったが、佐久間が破獄を繰り返す背景には、一途な妻への愛がある。
山田が繰り返し読んだという、光を浦田が訪ねて佐久間について語り合うシーンは、光もまた佐久間への強い愛情を感じさせて、観る者を惹きつけるシーン。
しかし、脱獄される看守にとっては、佐久間は自らを追い詰める存在だ。
浦田をはじめとした看守たちと囚人・佐久間が、お互いに追い詰め合う緊張感の中、とりわけ若い看守・野本(中村蒼)が、精神的に追い込まれて夜の監獄で佐久間に詰め寄る場面では、戦時中という当時の時代背景も相まって、その心労が伝わってくる。
原作では戦前・戦後の混乱期についての記述も多いが、ドラマは脱獄囚と看守という、重厚なテーマを扱いつつもテンポよく展開し、佐久間と看守たちの息詰まる攻防が描かれ、最後まで目が離せない。
また、超人的な佐久間という役を山田がどう演じるのか、たけし演じる浦田は佐久間をどう御するのか、見どころの多い作品といえそうだ。
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(取材・文/しらべぇ編集部・くはたみほ)