行き先が存在しないバス停、人助けに貢献 「優しい嘘」ネットで称賛の声続出
愛知県豊橋市にある行き先不明のバス停。この取り組みを絶賛する声があがっていて…。
会社や学校、買い物、観光──。バスに乗る際は何らかの目的があり、自分の行きたい場所に向かうバスを選択する。当然、バス停に行けば、看板には「○○行」と書かれている。
だが、愛知県豊橋市には「存在しない行き先」のバス停看板が掲げられていて…。
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■使われなくなったバス看板を…
件のバス停は、愛知県豊橋市のグループホームにある。11月15日、豊橋市内を走るバス会社・豊鉄バスがバス停看板とベンチを地元のグループホームに寄贈したのだ。
豊鉄バスがグループホームを巡回するために新しく設置したのではない。バス看板は、すでに使わなくなったものだ。つまり、使う側からすると、どんなに待ったところでバスは来ない「行き先が存在しない」バス停ということ。
じつはこのバス停、施設に入所している認知症の人がふらっと外に出て行方がわからなくなるのを防ぐために設置されたのだ。
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■ネット上では絶賛の声
認知症の人を思うバス会社の取り組みは、一部のメディアでも紹介された。ネット上では、「徘徊も何かを探したり目指して行くので、視覚からもわかるバス停ならいいかも」「家族に認知症いるけどこういうのはもっと広がってほしい」「認知症の人を思った優しい嘘」「確かにここで待っていれば徘徊を防げると思う」など、”行き先がないバス停”を絶賛する声があがっている。
件のバス停はどのような経緯で設置されたのだろうか。豊鉄バスに取材したところ、「意外な裏側」が明らかになったのだ…。
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■バス停設置の経緯は…
取材に応じてくれたのは、豊橋鉄道で保健師を務める赤川景子さん。豊鉄バスは豊橋鉄道のグループ会社で、今回の件は赤川さんが関わったそうだ。
赤川さんによれば、豊橋鉄道は昨年から全従業員を対象に認知症研修を行っており、その関係で行政機関とのつながりがあったという。バス停を寄贈する話が持ち上がったのは今年の春先のこと。
「認知症啓発イベントに参加した際、グループホームのスタッフの方から話を持ちかけられました。バス停を置けば、認知症の方がそこで待って自然と気持ちを切り替えることができますし、近隣の方にとっても、認知症の家族が外に行ってしまった際、施設のバス停で待つことがあるかもしれません。そういう方が座っていれば、施設の職員が気付いて安全に保護できると思いました。この話を豊鉄バスに持っていき、4つのグループホームに寄贈することになりました」(赤川さん)。
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■「遊び心を加えることも」
認知症で徘徊する人の中には、目的がある人も少なくないようで…。「バスに乗れば、家に帰れると思うことが多いようです。昔の記憶は案外長く残っていがちで、バスで仕事から自宅に帰ったことを思い出して乗ってしまうのかもしれません」(前出・赤川さん)。
施設を抜けて昔のことを思い出してバスに乗ろうと、ベンチに座って待つ。それを見つけた職員が声をかけることができるというわけだ。
寄贈する上で行き先を消し、そこに何を書くかは施設側に任せているそう。「時刻表のところに遊び心を入れて、お茶を飲む時間である10時と15時に『茶』『喫茶ルーム経由』と書く施設もあるようです。看板を寄贈させていただいた際、グループホームの皆さんが笑顔になられて、バス停一つでこんなに喜んでくれるのかと感銘を受けました」(前出・赤川さん)。
厚生労働省によれば、65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年時点)とされる。豊鉄バスの取り組みが全国に広がれば、認知症の人や家族、施設の人など多くの人の助けになるかもしれない。
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(取材・文/Sirabee 編集部・斎藤聡人)