【ピアニストが解説】クラシック歌曲にみるお国柄!詩人「ドイツ」や語らない美「日本」
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みなさんは、歌曲ってご存知ですか? 歌曲とは、クラシックの独唱用や少人数用の声楽曲のことです。実は、歌曲の題材の多くが恋愛。歌曲には、そのお国柄の違いがギュッと凝縮されています。今回は、ピアニストである筆者が歌曲の伴奏を通じて感じたお国柄による愛情表現の違いを見ていきたいと思います。
「THE 愛の国」イタリア
イタリアはオペラで有名な国。歌曲でも愛をテーマに歌ったものの多さは群を抜いています。しかも、歌詞は超ダイレクト。「愛しきあなた」や「あなたなしでは生きられない」なんて言葉を平気で口にします。
イタリアの伊達男が良く口説き文句に使う「君は僕の星だ」や「薔薇のようなその唇」のようなキザな例えもよく使います。
そのクサくてダイレクトな歌詞をサビに持ってきて、大きい声(f=フォルテ)で歌い上げなければならないのがイタリア歌曲。
「アモーレ(愛)」「ドローレ(苦しみ)」という口を大きく開ける言葉がサビにくるので、サビのメロディーはゆるやかで伸ばすものが多いです。「愛を叫ぶ」タイプがイタリアといった感じでしょうか。
ちなみにピアノの伴奏は、それを盛り立てたり、華やかさを足すものが多いです。
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詩とテンポ感を重んじるドイツ
イタリア語の伸びるような母音の多い発音と比べて、子音が多く、カチッとした印象のドイツ語。ドイツ歌曲で大切なのは歌詞です。詩人ゲーテやハイネなどの詩から触発されて作曲された歌曲も多いため歌詞は情景の描写を含む文化的な内容が多く、感情的なイタリア歌曲の歌詞とは対照的なイメージ。
また、メロディーもイタリア歌曲とは対照的で、ドイツ歌曲では詩を朗読するかのようなテンポ感が大切です。ドイツ語は冠詞・前置詞などの関係で弱起(アウフタクト)で始まる曲が多いのが特徴。それをうまく表現するためにも、のびのびしすぎないテンポが重要なのです。
「愛の詩人」タイプのドイツ歌曲においては、ピアノ伴奏がこのテンポ感を保つ重要な役割を担い、詩、歌、伴奏の調和を重んじます。歌い手が主役となって感情を表現するイタリア歌曲とはこれまた対照的です。
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儚さと不可解さに美を求めるフランス
フランス歌曲は、一言で言うとアンニュイ。フランス語の発音もそうですが、あまりはっきりとはしておらず、明るいイタリアともカチッとしたドイツとも違います。
例え上手なのは、隣国イタリア人と同じですが、イタリア歌曲が愛する人を「星」とか「太陽のある空」のような明るく目に見えるものに例えることが多いのに対して、フランス歌曲は「夢」、「闇」や「光」のような掴みようのない儚さをもつ例えを多用します。
メロディーは、フランス語の言語と同じように流れるようなものが多いです。ピアノ伴奏もそれに合わせるように流れるような感じですが、単純に美しくは終わらせてくれないのがフランス音楽。
暗い和音に乗せて愛の美しさを歌ってみたり、優しく明るい和音に乗せて愛の悲しさや苦しさを歌ってみたり…フランス人は複雑なものや不可解なものがお好きなようです。
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「語らない美」日本
ヨーロッパ3カ国と比べると、日本歌曲はとても控えめ。そこに日本の美学があります。
日本の歌曲には四季の美しさが描かれていて、愛情の深さも四季の情緒に例えられることが多いです。そこには、はっきりと色彩さえも浮かんできそうな魅力があります。「愛」とか「恋」とかいう直接的な言葉を使って表現することはあまりありません。
日本歌曲は、叫んだり訴えかけたりするというよりは、淡々と語りかけるようなものが多く、メロディーはなだらかです。大きい声で張り上げるものは少なく、心の高揚をさらけ出さないのを美徳としています。
大事なところは言わず、ピアノ伴奏が間奏で盛り上げるなんて曲もよくあります。終わりも、特に「ジャン!」と盛り上げるようなこともなく、サラッと終わるような曲が多く、外国人が聴くといつ終わったんだろう? と思うような曲が多いです。国歌がまさにそれの典型ですね。
歌曲に見られる愛情表現の特徴、その国の言語や自然環境による国民性が意外と顕著に現れていると思いませんか? テレビやコンサートで聴く機会などがあれば、ちょっと思い出してみてください。
(文/しらべぇ編集部・砂流恵介・辰巳真理)