もう一人の芥川賞受賞者・羽田圭介が又吉直樹と違う点【芥川奈於コラム】
お笑いコンビ・ピースの又吉直樹氏の受賞で沸いた第153回芥川賞。その陰でひっそりと同じ栄光をつかんだ作家がいた。それが『スクラップ・アンド・ビルド』(文藝春秋)の羽田圭介氏(29歳)である。
最近放送されたバラエティ番組に羽田氏が出演した際、放送後にはネット上で彼のキャラクターが大いに注目されていた。私のTwitterのタイムラインはしばし、彼の名前で溢れていたほど。
大きな注目を浴びることになった羽田氏の「キャラクター」とは…。
■文学界の「ふなっしー」?
その番組に映っていた羽田氏を何かに例えるならば、「ふなっしー」である。
聴衆のために“ヒャッハー!”と右に左に騒ぎまくるけれど、いざその姿を“脱げば”真面目な人なのだろうと思えるふなっしー。羽田氏に同じような匂いを感じたのは、私だけではないはずだ。
有名司会者相手に物怖じもせずに「受賞作買って下さい!」と言い放つ羽田氏。途中、デーモン小暮のメイクをして「聖飢魔II」の歌を披露する羽田氏。その他にも、「これが芥川賞作家かぁ」と、少々ポカンとさせてしまうくらいに“ヒャッハー!”していた羽田氏。そんな彼を、ネットが放っておくはずがなかろう。
そして興味深いことに、羽田氏のテレビ出演は見事、その受賞作の販売に貢献しているようだ。SNSなどで多くの人が「本を買いたい」「読んでみたい」と言っているほか、書店に行ってみると、発売直後から『火花』に負けないほど大きく取り上げられている様子が見てとれる。
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■受賞作『スクラップ・アンド・ビルド』
主な登場人物は、資格の勉強をしながら中途採用試験を受けている主人公・健斗と、身体が弱ってしまって「死にたい」が口癖の祖父、そんな祖父を疎む母親。
この小さな家族の中で起きる日常が描かれている。
こう書くと“介護”や“老人福祉問題”の小説かと思われそうだが、本作はそういった類のものではなく、「死にたい」という祖父をいかにして自殺幇助にならないよう彼岸に送ってやろうかと思う主人公と、実は死ぬ気などさらさらない祖父とが生きていく、ユーモアのある作品だ。
深く掘れば、無数のテーマがでてきそうな一作でもある。
同じくして芥川賞を受賞した又吉直樹氏の『火花』と読み比べても、好みはあれど、やはり甲乙つけがたい。
大きな違いといえば、又吉氏の作品には万物共通の優しさがあり、羽田氏の作品はすべてが「男脳」、つまり男性にしか書くことができない視点で書かれているところか。
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■今後も目の離せないふたり
テレビを観ただけで羽田氏を“色物作家”と決めつけてしまうのは、完全に間違っているということだけは伝えておきたい。
羽田氏は17歳で文壇デビューしていることから、今回の受賞作以外にも多くの作品を発表している。彼に興味をもった人は、それらも手に取ってみてはどうだろうか。
第153回芥川賞受賞パーティが近々開催される。両氏に会えるのが今から楽しみである。
(文/芥川 奈於)