「夜間飛行」の鬼上司にみる「下町ロケット」と通ずる精神【芥川奈於の「いまさら文学」】

2015/11/20 17:00


サン・デグジュペリ著『夜間飛行』(1931年)

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この物語は、郵便飛行業がまだ危険視されていた草創期に、事業の死活を賭けた夜間飛行に従事した人々のヒューマンドラマである。

舞台となる航空会社の全航空路の責任者・リヴィエールは、部下の過失に非常に厳しい男だ。少しでもミスが発覚した場合には、厳格に処分する。実に冷静な彼は、部下に憎まれようとも常に威厳を持つ。これこそ、リヴィエールが自らに課した規律なのである。

しかしながら、その内面では常に葛藤しており、夜間飛行のために操縦士たちを危険な目に遭わせていいものか、いつも考え、苦悩している。

ある時、飛行士のファビアンが、パタゴニアの快晴な空からブエノスアイレスに帰還する途中で突然の嵐に巻き込まれ、やがて連絡が途絶えてしまう。飛行士を失ったリヴィエールは打ちのめされる。

しかし、その直後に部下のロビノが言葉をかけようと気を遣い、管理人室へ入ると、リヴィエールは次の便の飛行命令を出す…

「夜間飛行」という前例のない世界を成し遂げようとする者のトップは、こんなにも追い込まれるものなのかと考えると同時に、これは、どんな世界に於いても言えることなのではないだろうか。

2015年9月よりTBS系列で放送されているドラマ『下町ロケット』(原作・池井戸潤・2010年刊行)の佃社長(演・阿部寛)にも同じ姿を見る。

ロケットのエンジン開発のため、小さな町工場「佃製作所」で部品の心臓ともいえるバルブシステムを開発するのだが、そのシステムの特許を大手企業から高額で譲ることを求められたり、勝つことの難しい裁判に出くわしたりで、何度もくじけそうになる。

その度に佃の自社バルブを愛する気持ちを理解できない社員から不満が出たり、晴れて製品提供が決まっても異端の者から裏切られ窮地に落ちたりもする。

佃はそんななか、理解せず去っていく者は追わず、そして敵である大手企業社員でも佃製作所のメンバーでも、自社のバルブシステムの力と自分を心から信じた者だけを従え、結果ベストな人材を揃えて大きく飛躍していく。

トップの持つ一見冷静な言動の奥には、そこはかとない懐の深い人間愛を感じるものだ

「命の前には勝利や失敗など何の意味もない。」というリヴィエールの言葉に、厳しい人間の持つ真意を見ることができる気がする。

あなたの会社の上司も、どんなに憎らしく思えても、心の中では部下のために必死に心を痛めているのかもしれない。

(文/芥川 奈於

コラム文学
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