いないと成り立たない…音楽ライブを支える「マニピュレーター」という仕事とは?

2015/01/27 17:00


cozykubo

(Photo by Hiroyasu Sato ※写っているのは久保こーじ氏)

みなさんは、音楽アーティストのライブで重要な役割を担う「マニピュレーター」という職業をご存知だろうか?

現在、多くの音楽ライブでは、ボーカルや生演奏以外に電子制御されたシンセサイザーの音などを耳にする。アイドルグループやダンスボーカルグループのライブでは、生演奏自体がないことも珍しくはない。

音楽ライブにおける、そうした(生演奏以外の)データ作成からライブ当日の演奏まで全てを担う重要な役割を担っているのが、マニピュレーターだ

例えば、ソロアーティストで多重録音されたコーラスなどのパートも、マニピュレーターがライブ用にデータを加工し鳴らしている

また、生演奏を伴うバンドであっても、リアルタイムに演奏するキーボードだけでは表現しきれないパートも多く、そうした音色を生バンドと「同期」させて一緒に演奏させるのもマニピュレーターの仕事だ。

ピコピコした電子音とドラムの演奏を揃わせるために、彼らは「クリック」と呼ばれるメトロノームのような音などをドラマーのイヤーモニターに送る。ドラマーは、そのクリックに合わせて「1、2、3、4!」とやっているのだ。

また、シンセサイザーなどの電子楽器を多用するアーティストにおいても、マニピュレーターは重要な役割を担っている。例えば、「TM Network」のようなアーティストでは、小室哲哉氏がライブにおいて生演奏を担当しているため、マニピュレーターがそれ以外の電子パートやコーラスなどを制御しているのだ。

さらに、音楽ライブでは「MC」と呼ばれるお喋りの時間があるが、曲に合わせた話をした後に丁度よいタイミングで演奏をスタートさせるのも、彼らの仕事のひとつである

まさしく、現代の音楽ライブにおいて必要不可欠とも言える存在、「マニピュレーター」。今回は、数々の有名アーティストを陰で支えている現役のマニピュレーター4名に、仕事における苦労話などを伺った。

以下が、今回話を伺った4人のマニピュレーターと、それぞれが実際にマニピュレーターとして参加したアーティストだ。

・久保こーじ
TM Network、鈴木亜美・ButterFlyKiss・川口千里バンドなど

・守尾崇
access・BoA・D-LITE・mihimaru GT・安室奈美恵・SPYAIR・TMNなど

・溝口和彦
KinKi Kids・徳永英明・広瀬香美・服部克久・9nineなど

・宇佐美秀文
The Gospellers、鈴木雅之、Skoop On Somebody、MEG、BABYMETAL、中川翔子、BREAKING ARROWSなど



●マニピュレーターはお金がかかる仕事

マニピュレーターの仕事で必須な機材が、音を演奏させるためのパソコンや電子楽器の数々。そのため、機材費が嵩むというのが彼らにとっての苦労ポイントのひとつのようだ。

「トラブル対策のため安定化電源などを組み入れたり、パソコン以外にもハードディスクレコーダーを同時に走らせたりしています。それら高価な機材を自腹で買わなくてはいけないので、初期投資がかかる」(久保こーじ)

「機材が個人所有なのですが、ツアー用、自宅用、緊急用の予備など数セット揃えなくてはいけない」(溝口和彦)

横浜アリーナや東京ドームなどの大きな会場であっても、演奏される音の多くが彼らマニピュレーターによって演奏されている。彼らの演奏が止まってしまうと、曲そのものがストップしてしまう。彼らの責任がどれだけ重大であるかが分かると思う。

そのため、彼らマニピュレーターは様々なトラブル回避のための対策を行っている。多くのマニピュレーターがフリーで活動しているため、その機材費は個人にとっては非常に大きな負担なのだ。


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●ライブ本番ギリギリまで徹夜続き…

「リハーサル前にデータを仕込み、リハーサル後にデータを直し、本番用にデータを組み直す。本番始まるまでがマニピュレーターのお仕事のほとんどで、徹夜が続く現場も数知れず」(久保こーじ)

「演出変更やアーティストの体調不良などで急なデータ変更が発生することもあり、ひとり居残りで作業することも珍しくはない」(守尾崇)

「音色やフレーズを自力で耳コピ・制作する必要があることもあって、複雑なアレンジだった場合には苦労することがあります」(宇佐美秀文)

CDでは生演奏で収録されていたトランペットやバイオリンなど、バンドにないサウンドを鳴らさないといけないことも多い。ライブではアレンジやテンポ自体が変わることも珍しくないため、レコーディングデータをそのまま使えないことは日常茶飯事だ。

ライブに観客で参加していると、それらの演奏が違和感なく聴こえていると思うが、それらは彼らの苦労の賜物なのだ。


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●マニピュレーターあるあるは?

「本番演奏中に間違ってストップボタン押しちゃって、機材がトラブったふりをする」「MCが終わってないのに次の曲をスタートしはじめて、ボーカリストからにらまれる」(久保こーじ)

「マニュピレーターと書かれる」(宇佐美秀文)

「マニュピレーター」と誤記されることは、共通して非常に多いとのこと。(ちなみに筆者も取材依頼をする際に書き間違ってしまい、怒られた…)


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●再生ボタンを押すだけ…そこにプロの全てがある

プロのマニピュレーター4名に話を伺ったが、ライブでの役割については共通して「再生ボタンを押すだけ」だと自ら語っていた。しかし、「再生ボタン」を押すだけで円滑に進むようにするため、彼らが涙ぐましい努力を行っていることが分かる。

「ステージ上いる時もあればステージ裏にいる時もあります。ですが、音楽の1パートを担っているという意味でも、気持ちは常にステージの上にあります」(宇佐美秀文)

「観客に興奮と感動を届けられるマニピュレイトのカタチを探索しています」(久保こーじ)

普段あまり目にすることがない彼らの仕事。しかし、ライブにかける情熱は、ステージ上にいる生演奏のアーティストと同じ、いやそれ以上なのかもしれない。音楽ライブに行った際には、ステージ上のアーティストに対してだけではなく、彼らにもそっと声援を送ってみてはいかがだろうか。

(取材・文/しらべぇ編集部・常時系

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