永遠の別れに備えて読みたい「銀河鉄道の夜」【芥川奈於の「いまさら文学」】
■あらすじ
出稼ぎ漁に行き帰らぬ父と、病気がちの母を持つジョバンニは、印刷所で働きながら学校に通っていた。
そんなジョバンニを意地悪なクラスメイト・ザネリ達は馬鹿にしていたが、勉強のできる親友カムパネルラはいつもさりげなく庇ってくれていた。
年に一度の星まつりの夜、ジョバンニは母に頼まれ牛乳を買いに行く。その途中、空から突如大きな機関車が現れて______。
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■物静かな昔の小学生たちを見習え!
妖怪や美少女戦士などなど、現在の日本の世の中には子供たち、そして大きなお友達を魅了する様々な誘惑メディアが氾濫している。
しかし、この作品の舞台となっている世界では、「年に一度の星まつり」くらいしか人々が団結して騒げるイベントがない。
だからこそ、今では珍しい「平等」の枠から超えた、祭りに参加できない貧しいジョバンニが印刷所で黙々と働く姿が映え、彼が牛乳を買いに行く道にあるチカチカと光る裸電球の電信柱などは、ノスタルジックで印象的に残る。
それを踏まえて、銀河鉄道に乗った後のジョバンニとカムパネルラの会話に注目してもらいたい。同級生とは思えない上品な言葉使いをし合う小学生。
良家の息子と苦学生、その垣根を超えた二人の、列車という密室で進む静かな時間に萌…いや、読んでいて大変清々しくもあり貴重な経験をさせられているようにも感じられる。
決して大手コーヒーチェーン店内じゃなくね? な、純喫茶店(星四つ半評価くらい)で話している物静かな大人達のようでもある雰囲気は本当にほっとさせられ、反面危うくもあり楽しめる。
これは仕事でも言葉使いを疎かにした上、雑多に過ごし、最後にはなんですのん? と、なあなあにしてしまう我々も見習わなくてはならない部分ではなかろうか。
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■もしも竹馬の友との別れが来たら…
卒業や就職、転勤、転職などで親友との進路が変わることは多々あれど、永遠の別れが来るという悲しい出来事はなるべく避けていきたい。そうはいっても神様は残酷なもので、人の命など簡単に奪ってしまう。
筆者も先日、数十年来の親友を失ったばかりである。宗教じみたことや説教は書きたくはないが、もし相手にその日が迫っていることが判れば、できる限りのことをしてあげようと思う。
先に触れた友人とは、筆者は年に何度も魂のこもった文通をしてきた。お互いの苦しみをそこで吐き出すことで、案外と励まし合えるものである。
カムパネルラのように突然にそれが訪れた場合は、それまでに自分が相手に何をしてきたか振り返った時、素直に涙を流せるようになっていれば少しは救われるように思う。
詰まるところ、非常に難しいが日々を大切に生きることが、身の回りの誰にも喜ばしい結果につながるのである。ザネリのようなイジメ、ダメ、絶対! なのだ。
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■そんな「銀河鉄道の夜」を読みたくなったら
この作品の特筆すべきところは、淡々としながらも美しい数ある会話の中から、その情景を思い浮かべて読んでみてほしいということである。
銀河鉄道の旅の摩訶不思議な光景は、百人百色である。そして最後に自分をジョバンニに置き換えた時、あなたという人間の性質が心の底から丸裸にされることであろう。
かなり恐ろしくもあり、有り難くもあるバイブルとして一読して頂きたい。
(文/芥川 奈於)