【法律コラム】GPSアプリで妻を監視…歪んだ愛のカタチはどんな罪になるの?
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先日、夫が妻のスマホに遠隔操作アプリをインストールしたとして逮捕されたというニュースがありましたね。
夫は、GPS(全地球測位システム)アプリで居場所を確認、通話を盗聴・録音し、メールを盗み読みしていたそうです。
怖い…。徹底的すぎて、怖すぎですよ。「好きな人のことが気になる」という気持ちとは次元の違う、不気味なものを感じます。
この夫婦に何があったのか、この夫婦は今後どうなるのか、ニュースからは読み取れませんので、今回は、法的な立場から、アプリの無断インストールについて解説したいと思います。
そこでまず、マインドソナーを使い質問をしてみました。
Q.自分と会っていない間、恋人が何をしているか全部知りたい?
5人に1人は、恋人が何をしているか「全部」知りたいのですね(汗)。う~む、意外に多いですね…。
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■GPSによる束縛は「ストーカー行為」ではない!?
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今回の行為は、アプリを使って奥さんの行動を24時間監視していたのだから、ストーカー行為なのでは、と考えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、「ストーカー規制法」を見てみましょう。
この法律が取り締まる「ストーカー行為」とは、「住居の付近で見張り等をして住居の平穏を著しく害する行為」や、「無言電話等の反復行為」とされています。
この法では、これまでのストーカーによく見られた行為を規制していると言えるでしょうね。
では、アプリの無断インストールやそのアプリによる監視はどうでしょうか? 確かに、見張り行為ではあるのですが、住居等の付近に待ち伏せしているわけではないので、結局、条文にぴったり合うものではありません。
そのため、直感的にはストーカーであっても、無断インストールやアプリによる監視だけでは、ストーカー規制法の「ストーカー行為」というのは、解釈上、厳しいかもしれませんね。
もっとも、相手に監視していると思わせるような事項を告げた場合などは「ストーカー行為」に該当する可能性はあります!
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■今回のケースは「不正指令電磁的記録供用罪」という罪になる
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ニュースになった夫は、不正指令電磁的記録供用罪という罪を犯したとして逮捕されました。
この聞き慣れない「不正指令電磁的記録供用罪」とは、
正当な理由がないのに、おかしな動作をさせるプログラム等を他人のコンピューター内に入れ実行可能にさせることを罰するもの
この罪は、もともとはコンピューターウイルスを使った行為を想定しているものなのです。
一方、今回の事件で使われたアプリケーションは、ウイルスではない、れっきとしたアプリケーションであるため、この条文が適用されるのは何か違うようにも感じられます。
ですが、これらのアプリは、例えばお母さんが我が子を見守るといった目的で作られた物であって、知らない間に妻のすべてを監視するというような使われ方は予定されていません。
このように、本来の使われ方ではない使われ方をされた場合には「不正」となりますので、今回のGPSアプリ等の動作も「不正」になるということでしょうね。
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夫からすれば、妻の事が気になって仕方なかっただけなのかもしれません。夫なりの「愛の形」だったのかもしれません。
確かに恋愛にはいろいろな形があると思います。でも、「愛」を理由に誰かの権利を侵害してはいけません!
今回の件は、いくら夫婦であっても、奥さんのプライバシーを侵害しすぎです。それに、まさか自分のスマホがこんなおかしな形で使われているなんて思ってもみなかったことでしょう。
奥さんの自由と安心を害した責任は重いと筆者は考えています!
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■終わりに
不正指令電磁的記録供用罪は決して有名な犯罪とはいえません。
今回の事件は、奥さんが県警に相談したことで発覚したのですが、もし奥さんが一人で悩みを抱えていたら、この条文に思い至る可能性はとても低かったと思います。
本来、恋人や夫婦は「対等な関係」で、常に監視し管理するというのは違うと筆者は考えています。皆様も、もし何か、いびつなものを感じたら、警察や弁護士に相談することを考えてみてください。思いがけない解決策があるかもしれません。
(文/弁護士・佐藤大和)