【オシャレのチカラ】60過ぎのオヤジが同窓会でモテモテになった話をしよう
久しぶりに実家に帰省していたときのこと。
すでに還暦を過ぎた父親が、同窓会に行くという。場所は銀座。華やかなりし大都会だ。
服に無頓着・・・というか、私服のセンスゼロベースな父があまりにもヒドイ格好で出かけていこうとするので、仕方なく私がコーディネートを組んであげることにした。彼のワードローブをあさって見つけた渋い赤色の柄ネクタイに、真っ白なシャツ、黒のベスト、グレー系のチェックのパンツ。ハゲ散らかった頭にはハンチング帽を――これはさすがに持ってなかったのでちょうど私がかぶっていたものを貸してあげた。
注:写真はイメージです。父はごく標準的な60代日本人男性です。
「この靴はイタリアのブランドでえらい高かったんだ」
と言いながら、ボロボロで底に穴の空きかけた革靴を出してくる父を止め、ノーブランドだけど比較的こぎれいな茶色の革靴を履かせた。
その後、私はすぐ東京に戻ってしまったが、あとから聞いたところによると父のスタイルは同窓会で大好評だったそうだ。
「みんなびっくりして、口々にオシャレだと誉めてくれた」
無邪気にはしゃいだ父は特にハンチング帽を気に入ったようで、後日同じ形の帽子を改めてプレゼントしてあげたら喜んで毎日のようにかぶっていた。
「この帽子がよかったんだよな」
そう言いながら、どんな服にでもそのハンチングをかぶり倒していたが、オヤジよ。それはコーディネートにマッチした帽子だったから格好よく見えたんであって、決してハンチングさえかぶればオシャレに見える、というわけじゃないのだよ。一応、そう説明してはみたものの、いまひとつ伝わらなかったのだろう。その後も彼は、いざ出掛けるとなると嬉々としてそのハンチングを取り出してくるそうだ。
たかが服、たかが帽子ひとつだけど、60過ぎのオヤジが他人から誉められて喜べたり、今まではおっくうだった外出が楽しく感じられたりするのはスゴイことだと思った。
オシャレの素晴らしさって、実はこういうことなんじゃないかな。
「着飾って注目されたい」「モテたい」・・・そういう動機でオシャレするのももちろんアリだけど、本当はもっとそれ以前の「人前に出ることが恥ずかしくない」「気後れせずどこにでも出かけて行ける」みたいなことが、誰にでもできるようになる。それが、オシャレの力。
その力を、父だけでなくもっとたくさんの人たちにも伝えたい――そう思っているうちに、気が付いたらスタイリストという仕事に就いていた。すでに70歳を過ぎた父は、今ではハットやキャスケットなど、多くの帽子をかぶりこなしながら日々楽しそうに出かけて行くそうだ。
【大人のための私服の教科書】久保田卓也(飛鳥新社)
(文/久保田フランソワ)