【アド街にも登場】リアル「三丁目の夕日」? 不動前で「昭和」を味わえるラーメン店
「降る雪や 明治は遠く なりにけり」と、俳人・中村草田男が詠んだのは、昭和6年の頃だったという。間に大正を挟んで、明治から20年以上を過ぎ、失われた時代への感慨を含めた句である。
現代をふりかえって見れば、今年で平成も既に27年。最後の昭和生まれ世代は壮年を迎えようとしており、平成生まれの会社員も珍しくはなくなった。
「昭和は遠くなりにけり」と詠っても違和感のない時代である。世界大戦、敗戦、占領、そして復興、バブル景気…昭和という激動の時代と共に生き、そして昭和の面影を残すラーメン店が、不動前に存在する。
『中華 こばやし』 は、今年で創業50年を迎える。この品川の下町で生まれ育った、店主の小林保男さんが、この地に店を構えた年、昭和40年という年はどういう年だったのだろうか。
時は高度経済成長まっただ中、「君といつまでも」「函館の女」が流行し、映画「網走番外地」が公開された。読売巨人軍V9の最初の年であり、「子供が好きなものは、巨人、大鵬、卵焼き」と言われた時代だ。
その時代からほとんど変わっていない、澄んだスープのラーメンを覗き込むと、そこに50年の歴史が浮かび上がっているようだ。決して流行りの味ではない。
昔ながらの鶏ガラスープに、白く柔らかい麺。最近では「柔らかすぎる」と言われてしまうだろうが、ここでは優しさとして伝わってくる。メンマも、ここでは支那竹と呼びたくなる。
ラーメンだけでなく、しょうゆ味の濃いチャーハンも、懐かしく優しい味わい。黄色いカレーも辛さはほとんどない。今時はほとんど見ない、ガラスのコップに入ったスプーンも、少し嬉しくなる。
「昔は、子供たちがいっぱい来てくれたが、最近はファーストフードでね…」
「若い頃は雀荘の出前が多かったなあ、ここのチャーハン食べると勝てる、なんて言われてねえ」
そう昔語りもしながら、にこやかに今日もソバを作る、小林さんご夫婦。このお店には、昭和という時代を生きた、おふたりの人生が、そして長年の端正な仕事からあふれ出す、静謐な空気が詰まっている。
少し日常に疲れた時に、訪れて、ひとり昔を思い出したくなる、そんな素敵な場所。なお、こちらは、テレビ東京系列の『出没!アド街ック天国〜門前町の隠れた名店 目黒・不動前〜』でもつい最近、取材されたらしい。
(取材・文/しらべぇラーメン取材班・ドラゴン=サン)