新幹線に「手荷物検査」は必要? もし導入されるとしたら…?【法律コラム】
6月30日、新幹線の中で男が油をかぶって焼身自殺を図り、火災が生じた事件がありました。
巻き添えで1人の方が亡くなり、再発防止のために、新幹線も飛行機と同じように手荷物検査が必要という声も上がっています。
そこで、手荷物検査について、マインドソナーを使い質問をしてみました。
事件直後のせいか、筆者が思った以上に、
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■実際に「手荷物検査」は拒否できるのか?
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アンケートのとおり、検査反対派もいますが、もし手荷物検査が実施されることになったとしたら、「面倒だから、いやだ!」と拒否することはできるのでしょうか?
乗客と鉄道会社は乗り降りについて契約を締結していますが、いちいち契約交渉をしているわけではありません。もしそんなことしたら面倒にも程がありますからね。
そこで、鉄道会社(東海道新幹線の場合、JR東海)は、契約内容を書いたものを、運送約款という形で作成して公表しておくこととしています。
そして、
「運送約款がよくわかる所に置かれているんだから、(実際にどうかはともかく)乗客は内容を知っているはず。
そしてその上で乗客は切符を買って(あるいはICカードで自動改札を抜けて)いるのだから、運送約款に納得して契約した(はず)」
と、いうことを当然の前提としたうえで運用しています。
手荷物検査が実施されるとなった場合、
「新幹線に乗る前に乗客は、手荷物検査を受けなければならない」
という内容に運送約款が改定され、新幹線に乗る人全員にこの新運送約款が適用されることになると思われます。
とすると、面倒だと思った乗客も、手荷物検査に応じる義務があるということになるでしょう。なお、JR東海の運送約款はこちらで見ることができます。
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■検査をしない場合の、JR東海の責任は?
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一方、手荷物検査を実施しないと決まった場合は、そのあとまた放火事件などがあったとき、責任問題が紛糾することが予想されます。
この場合、JR東海は、損害賠償責任を負うのでしょうか。
ちなみに、責任を計る式として、ハンドの定式というものがあります。これは、アメリカのハンド判事が唱えたもので、 「損害発生の可能性×被害の重大さ>コスト」であれば過失がある というもの。
厳密に計算できるものではなく、これで全てを説明できるわけではありませんが、一つのわかりやすい例えになります。
例えば、再発可能性が高く再発時の被害額も高いのに、再発防止策をケチったら「過失責任あり」、という感じで判断するのです。
今回の手荷物検査の場合、再び放火などが行われたときの被害が重大であることに異論はないと思われますので、あとは、手荷物検査の費用負担もかなりのものであることと、再発可能性がどこまであるかを、天秤にかけることになるでしょう。
もし所持品検査実施となったら、筆者もそれに従いますが、できれば所持品検査なしでも何も事件が起こらない世の中だといいですね。
(文/弁護士・佐藤大和)