どん兵衛10分はまだまだ甘い!?博多うどんは40分茹でる!
マキタスポーツさんが提唱した、お湯を注いで5分で食べられる「どん兵衛」を、10分待ってから食べる10分どん兵衛。大きなムーブメントとなり、新しいどん兵衛の食べ方として定着する勢いがあります。
10分どん兵衛に人はなぜこんなにも熱狂するのか?
ほぼ日刊イトイ新聞で「おいしい店とのつきあい方。」を連載し、2015年12月16日に「博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか」を発売された外食コンサルタント・サカキシンイチロウさんに、10分どん兵衛の熱狂の理由を伺いました。
サカキシンイチロウさんは、10分どん兵衛は入り口であり、その先があるとお話されました。
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■10分どん兵衛の熱狂は食感への熱狂
――10分どん兵衛はなぜあれだけ熱狂したのでしょうか?
10分どん兵衛でみんなが驚いているのは「なめらか」、「表面がぬるぬる」といった新食感。というのも、日本人って「唇で麺の輪郭を感じるのが好きな人種」なんです。例えば、チキンラーメンって麺がよじれてるでしょう。そうすると、食べるときに暴れるんです、唇のところで。そこにおいしさを感じる。
人間って、「今、口の中になにか入ってきているぞ」と頭が感じるものの情報量の多さを、おいしいとか、お腹かがいっぱい、というふうに変換する動物なんですね。だから、歯ごたえがあると唇の情報、あごの情報が多いのでお腹がいっぱいになる。
これの集大成が讃岐うどん。こしがあって硬くて、しかも唇のあいだをバラバラしながら入っていく。食べると「うわー入ったー!」って感じがしますよね。カップ麺の麺も、いかにズズッとすすったときに唇を通るかで設計されているし、日本人はそういう食感に慣れています。
そういう意味では、10分ふやかしたどん兵衛の麺はもう情報をなくしてるんです。表面がぬるぬるになって、1本1本じゃなくてひとつの塊としてずるんと入ってくるから「なんだ、この食感は!」となる。これが10分どん兵衛の熱狂の理由です。
味は変わってないはずなので、おいしさへの熱狂ではなくて食感への熱狂なんですね。
――たしかに、はじめて10分どん兵衛を食べたときは「おいしい!」というより「なんだこれっ!」という驚きのほうが強かったです。
そうでしょう。ただ、麺がやわらかいうどんには10分どん兵衛を超えるものがあります。それが「博多うどん」です。博多うどんは、「牧のうどん」を例にすると最低でも20分、普通で30分、長いものは40分ゆでます。40分もゆでると、もう麺の表面は情報を発するだけの力がないんです。
だから、ラーメンや蕎麦がズズっと入っていくあの爽快感とか、唇が感じる感覚をおいしいと思ってる人が博多うどんを食べると、異次元のところにいくんです。「これは麺ではない」というふうに。こしがあるない以前の問題で、唇が感じる食感がまるで違うんで、「あれ?」って思っちゃう。
――異次元の食感。気になります!
どん兵衛の10分でおいしいと思った人には、次のステップとして博多うどんの40分を食べてみてほしいんです。どん兵衛と違って放置はできないけど、みるみるうちに麺が変わっていくので見ているのが楽しいんですよ。
40分もゆでてるとうどんがちぎれるんじゃないかなと思うけど、ちぎれないんですよね、麺って。あれは不思議ですよ。そして、丼のなかに入れたときはぺトンとしてるのに、だしを注いだ瞬間にふわーっと浮いてくる。あの愛おしさったらすごいものがあります。
そもそも、10分どん兵衛もおいしいかもしれないですが、麺が本当に博多うどんのようにやわらかくておいしかったらどん兵衛のだしではものたりない。
博多うどんは通常のうどんより麺がだしを吸い込んでいるから、だしのおいしさが重要なんです。だしを張って食べると唇全体があったかくなって、何かが入ってくるんですね。何が入ってくるかってだしが入ってくるわけであって。麺そのものの存在じゃないんです。
だしが塊になって口の中に入ってくるかのような食感がある。これを一度でも味わうと、うどんをゆでる度に毎回40分ゆでてみようかなって脳裏をよぎる。ただし、つらいのがだしを全部吸い込んで麺がやってくるから、だしがおいしくないとおいしくないんです。
化学調味料がちょっとでも入ってると、もう化学調味料の味しかしなくなっちゃうんで。これがおそらく博多うどんの神髄です。
――うどんではなく、だしが重要。
博多うどんはだしの文化であって麺の文化じゃないんです。だしがおいしく食べれるように麺が最適化されている。
欧米でラーメン屋に行くと、みんな麺は食べずにスープを全部完食するんです。スープこそが一番コストがかかって個性がでるものだというのを、欧米人は知っています。
逆に日本は麺を食べる文化。博多ラーメンは、ひとつのスープの中に麺を次々入れていきますが、日本の麺文化は世界のなかでは異形かもしれません。だしの文化の博多うどんはもしかしたら世界的なうどんなのかもしれませんね。それこそフランス人が博多うどんに出会ったらどうなるのか。
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■サカキ流 家庭で味わう博多うどん
――お話を聞いていると博多うどんをいますぐにでも食べたくなってくるのですが、家庭で博多うどんを味わう方法はありますか?
ありますよ。讃岐うどん系の半生麺など、スーパーに売っている半生麺か生麺を40分ゆでることで博多うどんを体験できます。ここで注意しなければいけないのが、買う前にひっくり返してもらって、タピオカ粉、あるいはでんぷん粉が入っていないものを選択すること。
とくにタピオカ粉。タピオカのひと文字があったらもう絶対ダメです。ツルツルしこしこしていておいしいんですけど、3分以上ゆでるとタピオカ粉が分解して水に逃げ出して麺がボロボロになるんですね。
――うどんをゆでるときに気をつけることはありますか?
普通にうどんをゆでるときと一緒です。麺を大きいなべでグツグツゆでていきます。グツグツうどんをゆでているとお湯が対流します。そうすると、対流にしたがってうどんが泳ぎはじめます。
20分を超えるとお湯が重たくなってくるので、対流がなくなってくるんですね。そうするとうどんがよじれてくるので、お湯を半分捨てて新しい水をいれてください。40分くらいになると、うどんがお湯のなかでプルプル震えはじめます。
そのプルプルしたうどんを見ると、水でキュっとしめたくなりますがしめないであっためといた丼にうどんを入れて、だしを入れれば完成です。
水でしめてもう1回あっためて食べるのも異次元の味です。讃岐のぶっかけとは違った、ムチムチとした、唇のとこで切れそうになるのに切れないでなかに入ってくる。博多にはそういうふうに1回長くゆでたうどんをしめてもう1回あっためて出すお店もあります。どちらもそれぞれにおいしい。
ひと玉ゆでたら半分ずつに分けて、ひとつそのまま食べて、ひとつしめてあっため直して食べれば、どちらが自分に合っているのかがわかります。僕はしめないでそのままがおすすめだけど、でもそうじゃないのもおいしい。それも博多うどんの文化です。
――40分ゆでているとうどんは伸びたりしないんでしょうか?
うどんは、温かいお鍋のなかにあり続ける限りは伸びないんです。やわらかくなっていくだけで。鍋焼きうどんもどんなにグツグツ煮込んでも伸びないでしょう。いったん火を止めて沸騰しなくなってから伸びはじめるんですね。
讃岐うどんもどんなにこしがあっても、表に出してほったらかしといた瞬間に伸びます。ゆでてる限りは伸びない。硬いものからやわらかいものになるだけであって、やわらかくなり続けるだけです。
――なるほど。うどんについてはわかりました。だしはどうすればよいでしょうか?
博多うどんらしくしようと思えば、いりことかあごだしでだしをとるとおいしいと思いますが、はじめて作るときは、いつもうどんを食べるときに使っているだしで食べてみるのがオススメです。「だしっていうのはこんなにおいしかったんだ!」と感じるはずです。
普段から使っているだしがとくになければ、スーパーに売っている無添加のだしで大丈夫です。濃いなと思ったらうどんのゆで汁で薄める。うどんのゆで汁が小麦の甘みがあっておいしいので。
だしではなくて、かつお節をバサッとのっけて、醤油とゆで汁おかけて食べるのもおいしいですよ。
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■サカキさんオススメの博多うどんの旅
お家で博多うどんの予行演習をしおわったら、ぜひ博多に行ってうどんを食べてもらいたいです。博多に旅行に行くひとつの目的としてうどんを食べるのはもの楽しいですよ。
成田空港からジェットスターに乗れば往復で一万円くらいですし、移動費やうどんの値段をいれても1万5千円あればじゅうぶんです。
――サカキさんおすすめのルートを教えてください。
始発のジェットスターで成田から福岡に行きます。福岡に着いたら、複数人でいくのであれば安いレンタカーを借りて、糸島にある「牧のうどん」の本店に向かいます。10時開店の一番に入って引きたてのだしを嗅いでほしいですね。麺も練りたてなので究極においしい「牧のうどん」を楽しめます。
はじめに頼むのは普通麺。普通麺を食べたら「すいません、20分待ってもいいですか?」と言ってやわい麺を食べさせてもらうと両方を堪能できます。
「牧のうどん」を食べたあとは、福岡市街に行く途中においしいうどん屋さんがたくさんあるので、食べログなどで探して1軒・2軒ほど食べてみてください。
そろそろお腹がいっぱいになると思うので、大濠公園で車を停めてゆっくり1周歩くのがオススメです。大濠公園には九州一美しいと言われているスターバックスとロイヤルガーデンカフェがあるので、どちらかを選んでコーヒーでも飲んでゆったりして、そろそろお腹がすいてきたなと思ったら移動します。
福岡市内に突入したら、因幡うどんやウエストなどを食べ歩きします。それでもまだお腹に余裕があれば、牧のうどんの空港店があるので飛行機にのる前にうどんを楽しみましょう。
――途中のうどん屋さんはどこのうどん屋さんでもいいんでしょうか?
不思議なもので、どこのうどん屋さんのうどんを食べてもなんとなくおいしいんです。たぶんおいしくないうどん屋さんはもうつぶれてるんでしょうね。
――なるほど。それにしても見事なまでのうどん三昧ですね。
まだ僕もやったことのない夢があって。博多には「ひらお」という天ぷら屋があるんですが、これがすごいんですね。揚げたての天ぷらを目の前でつくってくれるのに料金がたったの800円という夢のような天ぷら屋があるんです。
牧のうどん福岡空港店とひらおの空港店は隣同士にあるのでひらおの天ぷらをテイクアウトして、牧のうどんでお土産のうどんとだしを買って、家に着いたらそれでしめをする。「ああ、これは博多でも食えんばい」とか言いながら。幸せな旅行になりますよ。
サカキ シンイチロウ (著)
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(文/しらべぇ編集部・砂流恵介)