凡人か冷徹な殺戮マシーンか?映画『アイヒマン・ショー』が暴く真実
今でこそ「ホロコースト」と言えば、人類史上最悪の惨事として世界的に認識されている。
しかし、第二次大戦終結から15年余り、その事実はひた隠しにされていた。逃亡先で捕らえられたナチスの残党、アドルフ・アイヒマンがイスラエルで裁判にかけられる日までは…。
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■アイヒマンとは一体何者?
『アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち』は、ナチスの戦犯アイヒマンの裁判をテレビ放送するという、前代未聞のプロジェクトの裏側を描くヒューマンドラマである。
この裁判放映は、後に「ホロコースト」を理解するための出発点となった。
「世紀の裁判」を中継しようと、アメリカのテレビプロデューサー、フルックマンが、赤狩りで職を失っているドキュメンタリー監督のフルヴィッツを招いて撮影の準備にあたる。
しかし、裁判開始を前に次々と困難が押し寄せ、とりわけナチス支持者からの脅迫はフルックマンの家族をも脅かす。しかし、血気盛んな彼は屈することはない。
いよいよ歴史的な裁判の日を迎え、中継がスタート。物語は、次第にナチスの犯した大罪へとテーマをシフトさせていく。
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■「ホロコースト」という残虐な史実を知らしめた裁判
この裁判が行われるまで「ホロコースト」は、世界ではまだ充分に知られていなかった。当時、収容所からの生存者は「ホロコースト」に加担したと蔑視され、それゆえタブー視されていたからだ。
裁判のテレビ放映は、そんな隠された真実を否応なく世界に突きつけた。
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■ふたつの映画が垣間見せるアイヒマン像
『アイヒマン・ショー』の裁判シーンには、当時フルヴィッツたちが撮影した実際の映像が使用されている。その映像は後に『スペシャリスト/自覚なき殺戮者』というドキュメンタリー映画でも使われた。
これらふたつの映画が映し出すアイヒマンは、哲学者のハンナ・アーレントが「凡人」と形容した小役人とは違った印象を放つ。
裁判では112人にも及ぶ証言者が次々と凄惨な体験を語り、中には失神する者も…。ショッキングな実録映像を証拠として突きつけられるが、防弾ガラスの奥にたたずむアイヒマンは動揺を見せない。それどころか、表情ひとつ変えることがないのだ。
落ち着き払った彼の様子を見ていると、凡庸な小役人どころか、冷酷無惨な怪物といったほうがどこかしっくりくる印象すらある。
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■ナチズムが生み出した、冷徹な人種差別主義者
家庭でのアイヒマンは子煩悩でいい父親だったと言われている。そんな彼がなぜこのような蛮行に加担したのだろうか?
「ナチズムとは、徹底したレイシストが権力を握った、明白な人種差別システムです」
上映に先駆けて行われた映画イベントにて、ドイツ現代史が専門の東京大学教授、石田勇治氏はこう語った。
「ナチス親衛隊に入隊していたアイヒマンは、ナチズムを骨の髄まで染み込ませた人物です。つまり、劣等な人間に対して哀れみを持ってはならないという思想を徹底的に身に付けているのです」
彼は、長い逃亡生活において決して反省などしていなかった。それどころか、自分はドイツ再建のためにまだまだ使える人間だと吹聴していたという。
いずれにしても、12年続いたナチ時代が、いかに奇怪なものを作り上げてきたのかを感じさせるエピソードである。
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■レイシスト(差別主義者)の権力掌握が生み出す悲劇
ブラピもディカプーも出てこない渋い映画だが、この作品は「差別主義者が権力を持つとどうなるのか?」ということを、考えるいいきっかけを与えてくれるはずだ。
『アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち』は、4/23(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町他で全国ロードショー。