日本酒の宝「熊本酵母」は守られた!酒蔵には甚大な被害も
熊本県というと、「焼酎」のイメージが強いかもしれないが、じつは隠れた日本酒の名産地。県内には13の酒蔵があり、とくに吟醸酒にくわしい人なら「熊本の日本酒」と言われればピンとくる銘柄があるだろう。
酒蔵は古くからの木造建築も多いため、今回の震災で建物や瓶詰めされた日本酒に大きな被害が出た。
『香露』の銘柄で知られる熊本県酒造研究所の煙突(大正時代に建てられたもの)が九州新幹線の線路に倒壊した画像は、大きく報道されたため、目にした人もいるはずだ。
また上記写真の『瑞鷹酒造』も建物や商品が被災し、本社事務所を閉鎖している。
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■香露の森川杜氏に聞いた被害状況
しらべぇ編集部が杜氏の森川智氏に取材したところ…
森川「煙突が新幹線の線路に倒れたのに加えて、瓶詰めが終わっていた一升瓶が数百本割れました。醸造につかうタンクは無傷ですが、貯蔵につかうタンクはやや被害があるようです。
でも貯蔵のほうの蔵は建物自体が傾いているので、まだ危なくて私たちもあまり行かないようにしています」
余震が続いているため、被害の全容を把握するには時間がかかりそうだ。
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■日本酒業界の宝「熊本酵母」
お米を発酵させてアルコールをつくるのは「酵母」という微生物の働き。これが味の決め手になるわけだが、香露は全国の蔵元で数多く吟醸酒づくりにつかわれている「協会9号酵母(熊本酵母・香露酵母)」発祥の蔵。
今もその元株や変異株が保存され、吟醸酒をつくる蔵元に配布されている。酵母への被害状況について聞いてみると…
森川「酵母はふたつに分けて保存していて、ひとつは冷蔵庫に。これは停電したら死んでしまいますが、うちは自家発電できるので、少々の停電では冷蔵庫は止まりません。
もうひとつ、乾燥保存も行なっているので、もし自家発電が切れても大丈夫です」
日本酒の歴史を変えた貴重な酵母は、万全の備えもあって無事守られた。
熊本県はふだん被害が大きい台風や水害に手厚く備えているため、他の地域でも電気の復旧が早かったという。ただ、地震は想定していなかったせいか上下水道が元通りになるには時間がかかりそう、とのこと。
また、震度7を記録した益城町には酒造組合で契約している米の栽培農家もあり、今後の復旧・復興には課題も多い。地域経済は、密接につながっているのだ。
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■「醤油味」とよく合う熊本の日本酒
森川杜氏によると、東北や関東のお酒が塩味や酸味の効いた料理とよく合うのに対して、九州や熊本の日本酒は醤油味の料理と飲むと味わいがひきたつとのこと。煮物などと合わせるのもオススメだそうだ。
森川「うちの蔵は社員も全員出社して、日常を早く取り戻そうと努めています。地元でも『頑張ろう。これでは終わらないぞ』という空気があると思う。
全国のみなさんも特別なことをされなくてもいいので、ふだんの日常の中で熊本のことを頭にとどめていただけると嬉しいです」
日本酒業界ひとつとっても、農家、酒蔵、酒販店、流通などそれぞれが被害を回復する道は、長い闘いになる。時がたっても、日々の中で心にとどめておきたい。