教育熱心すぎる親にご用心!
東京で15歳の少女が41歳の母親を殺害したとして逮捕されました。今年3月には兵庫でもやはり15歳の少年が母親を殺害するという事件が起こっています。
どちらの母親も教育熱心で、事件前、成績を巡って口論になっていたことが共通しています。断片的な報道だけで断言はできないのですが、いずれのケースも「教育虐待」が日常化していた可能性が疑われます。
教育虐待とは一般に「子供の受忍限度を超えた勉強させること」を指します。
暴力を振るって勉強をさせることはもちろん、罵声を浴びせながら勉強させることも教育虐待になる可能性があります。子供だってひとりの人間です。子供の尊厳を踏みにじるような言葉をぶつけておいて、「奮起を狙う」などという理屈は許されません。
とはいえ、つい手を出してしまったり、思いあまってひどい言葉を言ってしまったりということもあるかもしれません。親だって未熟です。間違いは誰にでもあります。やってしまったあとに「まずかったなぁ。謝ろう。次からはしないようにしよう」と思えるなら「虐待」にまでは発展しません。親も少しずつ成長すればいいのです。
逆に、教育虐待をしてしまう親は、自分の意志では自分の言動をコントロールできなくなってしまっているケースが多くあります。親子関係を「支配—被支配」の関係でしかとらえられなかったり、子供の存在に自分の存在意義を依存してしまう心理状態になってしまっている場合が多いのです。
このような親から逃げてくる子供をかくまうシェルターを運営するある弁護士は次のようにアドバイスします。「子供は自分とは別の人間だと思えていますか?」「子供の人生は子供が選択するものだと認められていますか?」「子供の人生を自分の人生と重ね合わせていないですか」「子供のこと以外の自分の人生をもっていますか?」と自分自身に問いかけてみましょう。
■「子供の出来は親の腕次第」という幻想
親が自分の存在意義を子供の人生に重ねてしまう背景には、「子供の出来は親の腕次第」という風潮があるのではないかと私は感じています。「親として、なんとしてでもわが子にいい成績を取らせなきゃ」という強迫観念が、親を追いつめ、結局子供を追いつめることがあるのです。
ひたすら勉強をさせられて本当に東大に入ってしまう子もいれば、早々に勉強嫌いになってしまう子もいれば、親からのプレッシャーで精神的にめいってしまう子もいます。よその家でスパルタ教育がうまくいったからといって、自分の子供に同じ方法が通用するとはまったくいえません。人間は1人1人違うのですから。
ダイエットにもいろいろな方法がありますが、そもそも暴飲暴食をして不規則な生活をしていながら、どんな健康法を講じても意味がないことは言うまでもありません。同様に子供の頭を良くする方法というのもあまたありますが、親子関係が安定していないのに、勉強ばかりさせたところで効果が上がらないであろうことは、ちょっと冷静に考えればわかるはずです。
子供に勉強の大切さを伝えるのも親の役割ではありますが、親子関係を犠牲にしてまでやらせるべき勉強などないことは、肝に銘じておいたほうがいいでしょう。
<親として、教育虐待をしないための心得12>
① 子供には、生きていてくれるだけでありがたいと思う
②子供には、ひとりぼっちにはしないと誓う
③子供には、あなたの人生はあなたにしか歩めないと伝える
④イラ立ちや怒りを人のせいにしない
⑤自分の不安や恐怖を解消するために子供を利用しない
⑥「なぜ勉強しなくちゃいけないの?」を考える
⑦まず自分が勉強する
⑧「子供の頭を良くする」系の情報は真に受けない
⑨わが子にはわが子の良さがあることを忘れない
⑩ 結局親は無力であると肝に銘じる
⑪ 大人自身が自分の道を自分で選ぶ生き方を実践する
⑫ 「子供は社会の宝」の2つの意味を思い出す
(『追いつめる親』おおたとしまさ著、毎日新聞出版刊より)
<書籍紹介>
※この記事は全国のFMラジオネットワークJFNの「OH! HAPPY MORNING」のコラボ企画です。記事の更新は隔週木曜日10:30am。記事更新の約10分前から、おおたとしまさがこのラジオで記事と同様の話をおしゃべりします。
(文/おおたとしまさ)