佐村河内氏を描いた映画『FAKE』が突きつける テレビメディア3つの問題

2016/08/01 06:00


聴覚に障害を持ちながら『交響曲第1番・HIROSHIMA』や『鬼武者』のゲーム音楽などを作曲したとされ、「現代のベートーヴェン」とも呼ばれた佐村河内守氏(52)。

2013年に放映されたNHKスペシャル『魂の旋律〜音を失った作曲家』をきっかけに全国的な注目が爆発し、それも災いしてか週刊誌が「ゴーストライター問題」を報道。

新垣隆氏(45)がゴーストライターだったことを告白したことで、一転ワイドショーや報道番組、新聞、雑誌、ニュースサイトなどメディアスクラムによる袋叩きにあい、2014年を代表する「話題の人」となった。

そんな佐村河内氏に、オウム真理教信者の日常を描いた映画『A』『A2』やテレビのドキュメンタリー番組『放送禁止歌』などを制作したドキュメンタリー映画監督の森達也氏(60)が密着した映画『FAKE』が、ヒットを続けている。

佐村河内守
画像はYouTubeのスクリーンショット

メディアが「天才」と祭り上げた後に「嘘つき」「怪物」と奈落に突き落としたひとりの人間に、撮り手と被写体の関係がわかる距離まで近づき、新しい光を当てた傑作だ。


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■テレビ業界が噛みついた?

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映画『FAKE』は、テレビを中心としたメディア集中砲火とは異なる取材方法で、違う視点や仮説を提示するもの。さらに、まだ公開中のため仔細は省くが、映像の中には「テレビ業界人の胸に深く刺さるシーン」がある。

テレビ業界には、穏やかならぬ思いもあるらしい。そこで7月27日に開かれたのが、森達也監督とテレビ業界人による「我々は『FAKE』より面白い番組をつくれるか?」と題したトークイベントだ。

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3時間を超える議論を通して、テレビが直面するいくつかの課題が見えてきた。


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①「走りながら考える」制作体制

パネリストのひとり、日本テレビの岩間玄プロデューサーは、「テレビの制作スタッフには、走りながら考える部分がある」と語る。

放送スケジュールが決められ、つねに情報の鮮度が求められると、ひとつのネタをじっくり深掘りしたり、伝えられているのと違う側面に光を当てたりする時間を割きづらい。

岩間氏は「(佐村河内氏のゴーストライター問題において)今日撮って明日出す人たちが、すごく大きく足りなかったわけではなく、映画『FAKE』は後出しジャンケンの部分もある」と語る。

それに対して森監督は、「なぜみんな、もっと後出ししないのかが疑問。後から現場に行くと、いろいろなものが見えてくる。今のテレビには創意工夫がない」と返した。

時間に追われ、他メディアの報道を検証せずに増幅するような番組は、たしかに視聴者が期待するものとは異なるだろう。


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②「テレビはみんなのメディア」という前提

土屋敏男

『進め!電波少年』の「T部長」としても知られる日本テレビの土屋敏男氏は、「テレビは『みんなのメディア』という前提がある」としたうえで、「深夜などを含めたどんな時間でも『みんな』になる必要はないのでは?」と疑問を呈した。

「みんながみんな横並びになっているのは、貧しく感じる。『他がやってないんだからダメ』となっているのが、今のテレビが抱える病理」と手厳しい。

厳しい視聴率競争にさらされるテレビが、「旬」を過ぎた佐村河内氏のようなテーマを扱うのは困難だ。

一方で土屋氏は、テレビの今後への期待を込めて「テレビ制作者みんなが頑張らなくてもいいから、誰かひとり頑張ってほしい。近ごろはみんな『テレビは窮屈ですよね』と言うが、面白いことやってる制作者は『全然そんなことない』と言う」と語った。

みんなのメディアという制約の中で、それを突き破る個人の力が問われている。


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③責められると謝罪してしまう

NHKスペシャルで、佐村河内氏の問題に大きく関与したNHKからは、前田浩一プロデューサーが参加。

前田氏はその番組の当事者ではないが、「粘っても、佐村河内氏による作曲シーンを撮影できなかったため、制作者たちに『こだわりきれなかった』という負い目があったのでは」と分析する。

そのためゴーストライター問題に火がついた際、番組スタッフは「耳が聞こえると感じたことはない」と証言したにもかかわらず、負い目が性急な謝罪へと駆り立てていくことになったのか。

テレビは公共の電波を利用したみんなのメディアであるため、批判・非難・攻撃にきわめて弱い。近年はSNSの普及などもあり、ユーザーやネットメディアからの批判も盛り上がりやすい状況だ。


1本の映画を見ただけでも、多くの課題が浮かび上がるテレビメディア。

しかし、しらべぇ取材班がイベントタイトルにもある「『FAKE』より面白い番組を作れるか?」と質問したところ、ほとんどのパネリスト(森監督を含む)が「作れる」と回答。

テレビが復活・進化するヒントは、こうした個人の中にあるのかもしれない。

※本トークライブ後半の模様は、主催ドガピポHPにて近日公開予定

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(取材・文/しらべぇ編集部・タカハシマコト

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