ヒトラーの生家、取り壊しへ 「ナチスの影」は今も各地に

2016/10/28 10:00

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※画像はYouTubeのスクリーンショット

オーストリアの古都ブラウナウ・アム・インは、中世の雰囲気ただよう風光明媚な都市。

だがここは、「負の遺産」を抱えた町でもある。それはアドルフ・ヒトラーの生家だ。

20世紀中葉のヨーロッパを火焔の渦に叩き込んだ最悪の独裁者は、このブラウナウ・アム・インで誕生。その当時からこのクリーム色の外壁のアパートは存在するのだが、ここがネオナチの「聖地」になるのではと以前から指摘されていた。

そんな中、オーストリア政府はついに生家の取り壊しを決めたのだ。



 

■「ヒトラーの嫉妬心」が排他主義を生む

ヒトラーの犯した所業についてはもはや説明不要だが、その影響は現代にも残っている。

もともとは画家志望だったオーストリア人青年が、ウィーン美術アカデミーの入学試験に2度も落第する挫折を経て、現世に強い恨みを持つようになった。

「自分がこんなに頑張っているのに、世間は認めてくれない。おかしいのは世間のほうだ!」という、歪んだ発想である。

だから自分の1歳年下にもかかわらず、難なく美術アカデミーに合格したエゴン・シーレに強く嫉妬。ナチスは美術界に対しても支配的な態度で臨んだが、「優れたものとそうでないもの」に分けようとするヒトラーの性格がもたらしたものだ。

そうした仕分けは、やっている側にとっては非常に気持ちがいい。自分自身を絶対基準に置き、すべてのものを善悪で区別する。何かしらの不満を持っている人間は、そうしたことに手を出しやすい。

そして、その思想に同調する人間が今も大勢いる。


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■オーストリアの「黒歴史」

ところで、カトリック教会が制作を支援した映画『枢機卿』がある。

アメリカ人神父のファーモイルは、ウィーンで英語教室の教え子だったアンネマリーと恋に落ちた。ふたりはその想いを伝える寸前まで達するが、聖職者の仕事を忘れることができないファーモイルはアンネマリーと別れる。

十数年後、ファーモイルはナチスのオーストリア併合にやすやすと賛成する現地のカトリック教会を説得するためウィーンを訪れるが、そこでアンネマリーと再会…というシナリオだ。


この時のオーストリアは、カトリックの枢機卿までナチス・ドイツによる併合を支持。併合の是非を問う選挙も一応行われたが、併合賛成が97%という出来レースのようなものだった。

ファーモイルは台詞の中で、

「そういえば以前、純度92%の洗剤の広告を見たことがあるが、今回の選挙結果はそれ以上だ」


と、言っている。国民が一丸となってヒトラーに与した過去は、今やオーストリアの黒歴史だ。


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■生家と「我が闘争」

ヒトラーの生家は、現在は空き家である。以前は福祉施設が入居していたが、もはや「独裁者の生まれた場所」のイメージが強くなりすぎ、地元住民も感情を損ねているという。

ならばいっそ、取り壊そう。オーストリア政府はそのような結論に至った。ナチスの悪行を紹介する資料館に改装してはという声もあるが、やはり「聖地化」の可能性もあり建物は破壊するしかなさそうだ。


ヒトラーとナチスの「足跡」は今もヨーロッパ各国の政治課題として各地にこびりついている。最近ではヒトラーの書いた『我が闘争』がドイツ国内で公式出版された。これは同書のパテントが失効したことにより出版が可能となったもの。

だが、さすがにそのまま世に出すわけにはいかない。近現代史の学者がヒトラーの論理の間違いを指摘する注訳を入れ、ようやく出版にこぎつけた経緯がある。その注訳だけで、本の厚さが倍増してしまったそうだ。

ヒトラーの影を、人類はまだ克服していない。

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(取材・文/しらべぇ編集部・澤田真一

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