ピーク時はひと夏で100人以上の体臭を嗅ぐ 臭気判定士のお仕事
五感の中でも、まだ多くの謎があるといわれている嗅覚。視覚や聴覚に比べると、記憶を呼び起こす作用が強いとされ、快・不快に与える影響が大きい一方、同じ匂いでも人によって感じ方が異なるなど、説明の難しい感覚のひとつだ。
さまざまな匂いがある中で、臭気――くさい・イヤな匂いと向き合うプロの国家資格に「臭気判定士」というものが存在する。
一体どういった資格なのか、実際に臭気判定士の資格を持つ株式会社マンダムの基盤研究所 研究員・久加亜由美さんに話を聞いた。
■難易度の高い試験構成
「臭気判定士は、悪臭防止法という法律に基づいて創設された国家資格です。一般的には工場などの悪臭について、周辺住民からの苦情などがあった場合、行政やその委託機関が調査する際、臭気判定士資格を持った人が判定業務を行わなければなりません。
匂いには機械などで認識できるものと、できないものがあって、機器だけでの判別が難しく、その一方で一般的な人の『感覚だけ』の判定とならないよう、資格の取得試験では筆記と実技両方のテストに合格する必要があります。
特に筆記試験は、関係法や統計解析の知識も必要とされ、回答の選択肢も消去法がきかない構成になっており、全てを正確に理解していないと合格できません。合格率には幅がありますが、通常20%くらい、高くても30%ほどですね」
悪臭は時として健康に影響を与える物質が原因となっていることもあり、厳しい試験を通過しないと、資格が取れないというのも納得だ。
主に行政や関係機関の人が取得するという資格ではあるが、なぜデオドラント製品の研究・開発を行う立場の人が、臭気判定士の資格を取得したのだろうか?
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■業界内の調査手法を確立
「マンダム社員で最初に臭気判定士資格を取得したのは、2003年1月。当時は、香りの研究をする目的でした。当社は匂いの元となる、微生物を制御する技術の研究に強みがあり、その両輪となる優位性のある研究を行う過程で、国家資格である臭気判定士を活用することになった形です。
体の匂いを研究する上で、今ではスタンダードになった『官能評価』という手法ですが、この調査方法は当社が研究を進める中で確立したもの。調査を実施する際に当社は、基本的に4人以上で検証する規定があり、そのうち1人は必ず臭気判定士の資格を持つものが入り、検査を監督します」
匂いを嗅ぐことがお仕事ということで、いろいろ大変そうな気もするが…
「現在、当社には7名の臭気判定士がいますが、夏の調査ピークの時期には10人の研究員が連日総出で約200名の官能評価を実施。複数人での検証なので、ひと夏に100人以上の体臭を嗅ぎます。
ちなみに当社のデオドラント担当の研究員は、定期的に会社既定の嗅覚の試験を受けるのですが、この試験は臭気判定士資格取得の際の実技試験より、厳しい試験です。
自分自身に香りがついていてはいけないので、柔軟剤やシャンプーなどは使えないし、調査をする時期は匂いの強いカレーなどは厳禁。夏は繁忙期となるので、遊べない…などはありますけど、楽しく体臭をケアするお手伝いをして、匂いに悩む人を減らしたい! という気持ちが強いので、この仕事はずっとやっていきたいですね」
香りを楽しむ人が増えたとはいえ、無臭文化の国とも言われる日本。私たちが日々使っている多くのケアアイテムは、長年の研究と正確に匂いを嗅ぎ分ける人たちの存在に支えられているのだ。
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(取材・文/しらべぇ編集部・くはたみほ)