日本酒醸造の伝統と技術革新 山廃造りにこだわる『君の井』の選択
山廃仕込にこだわり、昔ながらの道具も使いながら丁寧に醸す妙高市の酒。
酒蔵を見せてもらうと、木製の暖気樽(だきだる)が目に飛び込んできた。仕込用や蒸米を運ぶための木桶はたまに見かけるが、これはなかなか見られない。山廃技術の継承の結果なのだという。
「試しに、いつから山廃造りをやっているのか、杜氏に聞いてみてください」 と、生真面目そうな7代目、田中智弘専務が、いたずらっ気をのぞかせるように言った。
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■ホーロータンクに木製暖気樽で造る山廃酛
近年、味のしっかりした酒を求める人たちを筆頭に、また酒造りの伝統回帰からか、生酛や山廃酛がクローズアップされる機会も多くなった。そんな中で君の井酒造は、伝統的な製法を引き継いでいることで知られる。
他ではほとんど目にすることのない、実際使用しているのは数えるほどだろう、木製の暖気樽が目に入り、田中専務に聞いてみる。
「伝統的な道具でもあるけれど、山廃造りには必須なんです。暖気樽に熱湯を入れて、山廃酒母の中に入れ、温度調節をするわけですが、木製なのでまず、持っても熱くない。そして酒母の中でも熱の伝わり方が穏やか。理にかなっているんです」
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■伝統の踏襲だけではない道具の理由
杜氏を務めている早津宏さんの説明になると、さらに具体的だ。早津杜氏は1976年、同社に入社し、新潟清酒学校で履修中に技能競技会の清酒製造業で技能士1級を1位で取得。2006年より杜氏となった。
米作りにも携わりつつ、この酒蔵一筋に40年を超えた、頼りになる存在だ。
「最初の温度を上げる段階であればステンレスやアルミニウムでもいいのですが、乳酸を増やす段階になると木製がいい。酒母に入れても木肌は極端な高温にならない。急激な温度変化を起こさず、なかなか冷めない。むしろ、木製でなければダメなんです」
木製の暖気樽は、情緒や懐古趣味ではなく、実利的な意味での使用だった。
使い続けている木樽も古くなってきて、順次新調しなければならないため、もう高齢で引退したいという木桶職人さんに頼み込んで作ってもらっているのだという。