美味しい酒の次に重要になるブランディング 情報過多の時代にイメージを守る『緑川』
よい酒造りはもちろん、売り方やブランドの構築にも余念がない。
鮎が泳ぐ清冽な川が流れる米どころ。魚沼市の旧小出町にある緑川酒蔵は、ホームページなし、通信販売をせず、外回りの営業もいない。信頼の置ける特約店にだけ商品を託している。
その特約店もホームページを見ると、ネット注文ではなく、電話で申し込むスタイルだ。今でこそ「ブランディング」の大切さがわかる時代だが、この徹底したマネージメントを20年以上前から徹底して行ってきたという。
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■徹底した清潔さが、目指す酒質への第一歩
緑川酒造社屋の玄関は、まるで料亭かという設え。酒瓶や菰樽はディスプレイされているものの、余計なものは置かず、ポイントを抑えた品の良さ、そして清潔感。 その感想は、蔵に入ってさらに感じられた。
確かに、不要な危険な雑菌を避けるため、「酒造りの半分は掃除と洗い物」と言われるほど、酒蔵は清潔第一。しかし、そのレベルではない、徹底してすっきりと片付けられた足元から壁。棚には、ホースを直線のまま片付ける棚や、道具のしまわれた配置図まである。
聞けば、専門家から定期的に整理整頓具合をチェックしてもらい、アドバイスをもらっているという。 整理整頓、清潔さをキープする環境をここまで整えられれば、社員もやらざるをないだろう。
この地への移転を機に、当時専務だった緑川酒造5代目の大平俊治代表取締役社長が切った舵は、想像を超える大きな転換だった。
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■良い水で造った酒の質を貯蔵でさらに上げる
1884年に創業した小出市街地から、山が近く田んぼに囲まれた現在の地に移転したのは、1990年のことだった。区画整理があったためだが、今の場所を選んだのは、ひとえに水のため。
鉄分が少なく癖がない軟水。そして豊富な水量。現在も敷地内から地下水をくみ上げて使用している。良水を手に入れた社長が次にとったのは、徹底的に温度管理のできる酒蔵の建築だった。
「それまでは自然任せ。蔵の中は涼しいとはいえ夏は保存温度が高くなります。冬~春に絞った酒を寝かせて、秋になると味は乗って美味しくなりますが、軟水のため熟成香が生じやすい。
低温熟成だと時間はかかるけどよりまろやかになり、香りの劣化も少ない。熟成とフレッシュさを両立させたかったので、貯蔵庫はもちろん、必要と思われる箇所は温度管理できる設計に。冷房設備が普及してきた現在とは状況が違っていた当時のことなので驚かれました」
前述の通り、きれいに大事に、もちろんリペアもしっかりして使っていることもあり、20年以上経った今も、問題なく使えているという。
同時にいち早く雪中貯蔵も試み、7月頃まで冷蔵して出荷する。真夏の日本酒はとかく不利な立場だが、嘘か本当か夏の方が売れていたと社長は笑う。