東日本大震災から9年 応援訴えた蔵元「いちばん怖かったのは未来が見えなかったこと」
東日本大震災後、自粛ムードの中で東北の日本酒への応援を訴えたYouTube動画を覚えているだろうか。
■出演には悩みと葛藤も
YouTube動画に出演する際は、葛藤もあったという。二戸市は内陸部にあり、南部美人も激しい揺れで蔵の一部が壊れたり煙突が倒壊したりといった被害はあったものの、津波ですべて押し流されてしまった地域とは状況が異なっていた。
久慈さんは出演にあたり、被害が大きかった同級生の蔵元に「動画に出て、東北の日本酒を飲んでくれるように言ってもいいだろうか」と聞いたという。
その返答は「ぜひ言ってくれ。一年後につくったお酒を飲んでくれるお客さんを増やしておいてくれ」というものだった。
3月の東北では、「甑倒し(こしきだおし)」といって日本酒の製造はほぼ終了しており、応援消費の支えがあったとはいえ売上が例年の数倍になる、ということはない。「その酒造年度につくった分がなくなって終わり」という状況だった。
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■他の地域にも波及
久慈さんが「当時びっくりしたこと」として話すのは、東北以外の酒蔵からの反応。
「東北・東日本の日本酒を飲もう」という動きが全国に拡がったため、「九州や四国の酒蔵に怒られるのではないか」と思っていたそうだが、そうした声は不思議なほど届かなかった。
九州のある酒蔵は、2011年まで右肩下がりだった売上が、2012年以降V字回復したことを社長が久慈さんに教えてくれた。
「九州でも東北の酒ブームだったので『うちは終わった…』と思っていたら、東北の酒で日本酒の美味しさに気づいた人たちが、地元の酒にも目を向けた結果ではないか」と言われたという。
今や、熊本地震や西日本豪雨など、自然災害が起きるたびに「その地域の酒蔵を、飲んで応援しよう」という声が目立つようになった。久慈さんもSNS上でそうした投稿を積極的に拡散している。
「地域に数十年、数百年根ざしてきた酒蔵を応援することは、その地域の農家や飲食店、小売店、さまざま人たちにつながり、被災地域の経済を回すことに気づいてくれたのではないか」と久慈さんは語る。