日本の優れた「豚の放牧飼育」全滅の危機 農家が語る法改正問題を簡単に解説
法改正で日本の優れた放牧養豚農家が消滅!? 理由を農家に聞いてみた
②放牧停止があった場合の豚舎の確保
2つめの問題点で、もっとも放牧養豚農家が危惧していることが『放牧の停止があった場合の豚舎の確保』。素人が見ると「豚を入れる小屋を建てればいいんじゃ?」と思ってしまうが、じつはそれだけではまったく済まない。
まず、養豚で利益が出るレベルの豚の頭数を入れられる豚舎を建てるには、数億円必要。さらに法定伝染病が発生した場合、収束するまでは数年~十数年かかること。つまり、質の高い豚肉を作る放牧養豚はその間一切できなくなってしまうのだ。
また、豚舎の建設には補助金は一切出ず、実質の放牧禁止措置だと武藤さんは農水省に確認済み。さらに法改正ではねずみ1匹出ない豚舎の建設が必要だというが、そこまで密閉した豚舎を作るのは防鳥ネットで囲うのと同じく、物理的に不可能なのだという。
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③放牧養豚農家からは豚熱が一切発生していない
さらに酷い点として、今回の法改正では放牧養豚農家へ大幅に規制がかかる物なのだが、じつは放牧養豚からは2020年6月4日現在、豚熱にかかった豚は一頭もいないという点だ。
頭数で見ると放牧されている豚は豚舎で飼われている豚よりはるかに数は少ないものの、健康的な育て方をしているため、武藤さんは豚舎で豚を飼っていたときよりも豚が病気にかかる確率や、死亡数は大幅に減少したと話す。
また、狭い豚舎で養豚をするともし疫病が発生した場合、感染が一気に拡大する可能性もある。それなのになぜ放牧養豚がやり玉にあげられなければならないのか、理解に苦しむところだ。
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■やり方は他にもある
武藤さん以外にも多くの放牧養豚農家がこの法改正を疑問視し、『change.org』では放牧養豚を守る仲間たちの会が法改正を見直すためのキャンペーンを開始。すでに数千件を超えるほど多くの署名が集まりつつある。
また、放牧養豚で飼育された品質の良い豚肉を使用しているレストランの店主たちもキャンペーンに署名したり、熊本県菊池市の江頭市長も実務者に確認するなど、自治体も農家を守るための対応に奔走している。
このままでは豚熱を一切発生させていないにもかかわらず、優れた技術を使い放牧養豚を行っている養豚農家が巻き添えで全滅してしまいかねない。
武藤さんは「もうだいぶ遅いが、ワクチンを打つなどやり方はほかにもある」と話す。現場の声を一切無視した法改正は、ぜひとも再検討してほしいものだ。
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(取材・文/しらべぇ編集部・熊田熊男)