『M−1』漫才の”脱正統化”が停滞した理由 錦鯉の勝利とオズワルドの敗北
錦鯉が王座に輝いた今年の『M-1グランプリ』を、正統派漫才論争の流れから考察する。
■漫才の完成度
オズワルドはさまざまなツッコミを駆使することで、漫才の緩急をつけ、完成度を高めた。一方、錦鯉は、錦鯉らしい漫才ながらも、非常に正統派漫才に近づけた。ネット上の評判においても、オズワルドの漫才は1本目の評価のほうが高いようだ。
1本目はボケの畠中悠が、友達のいないサイコキャラで、ツッコミの伊藤俊介の友達を奪おうとする漫才。2本目は、昔ながらの天使と悪魔の想定キャラクターが会話をし合う感のある漫才だが、そのキャラクターすべてを畠中が担う。
その多重人格的な狂気性も面白さであり、両漫才ともサイコ要素が垣間みられる。しかし、2本目は、ややこしさと捉えられた感もあろう。
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■脱正統派の停滞
その結果、今大会の王者に輝いたのは、錦鯉であった。脱正統派漫才の流れをくむ『M−1』だったが、終わってみれば、脱正統派漫才の旗手であるオズワルドの錦鯉に対する敗北は、正統派の勝利感もある。
正統派漫才と非正統派漫才の相克の中で、できるだけ両立を図ろうとする意味では、『M−1』の進化をみることができるだろう。
また前回優勝者の野田がコメントを振られ、「メモを真面目にとりながら、漫才を学んでいる」と発言したのも、この意味ととれる。 脱正統派漫才の流れは、じつは今回、食い止められたのではなかろうか。
■ネタ順の命運
なお、ネタ順については、トップバッターのモグライダーが、優勝も可能なほどの漫才をみせたにもかかわらず、早々に落ちたことにくじ運要素が現れていた。
また、オズワルド以降に飛躍的に点数が伸びており、ネタ順によっても運命が分かれた今大会だったろう。
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(文/メディア評論家・宮室 信洋)