「流行語大賞」とビジネスパーソン 約40年の“世知辛さ”を振り返る
12月1日に大賞が発表される今年の「ユーキャン新語・流行語大賞」。過去約40年を振り返りつつ、大衆なき時代の流行語とそこで描かれる「世知辛さ」を分析する。
■新語・流行語で振り返る働き方事情
私は「ユーキャン新語・流行語大賞」ウォッチャーである。若い頃から同賞を楽しみにしてきた。今回は、同賞を私の担当分野である「働き方事情」の観点から振り返ってみよう。
昭和の後期、平成、令和と「働き方事情」を俯瞰した場合に見えるものとは何か。結論から言うと、「世知辛さ、格差拡大型」「いまでは不謹慎型」「問題提起型」「新制度、新習慣型」この4つのキーワードにほぼ集約される。過去の受賞語を振り返ってみよう。
84年、第1回の流行語部門・金賞を「まる金/まるビ」(それぞれの語を○で囲んだもの)が受賞していることに注目したい。受賞者はコラムニストの神足裕司氏、渡辺和博氏とたらこプロダクションだ。
著書『金魂巻』で現代の代表的職業31種に属する人々のライフスタイル、服装、行動などを、金持ちと貧乏人の両極端に分けて解説したものだ。いまで言う「格差社会」を真面目に問題提起したものではない。このように、貧富を可視化すること自体、今では問題視する人もいるかもしれない。ただ、第1回から「格差」をテーマとした語が受賞していた点には注目したい。
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■現代では少々不謹慎な部類も
今では、コンプライアンスの視点からすると、不謹慎なものも散見される。第2回の85年には「イッキ!イッキ!」が流行語部門の金賞を受賞している。
受賞者は慶應義塾大学体育会代表だ。同校が最初に始めたという説から受賞となった。一気飲みの掛け声だ。その後、各大学では急性アルコール中毒の死亡者が出て問題視されたし、今では、チェーン居酒屋などでは一気飲みのコールがかかった瞬間、止めるようにマニュアル化されているが、当時はこのような言葉が流行していた。
ビジネスパーソンの生活の変化を感じさせるものもある。80年代後半には、第5回の88年に「ハナモク」が受賞している。週休2日制の定着で「花金(ハナキン)」がその数年前に流行していたが、今度は木曜日が遊ぶのに最適だと、この言葉が流行り始めた。金曜の夜からはスキーや小旅行に出かけるので、飲み会はこの日というわけだ。
なお、同年は「5時から(男)」「ユンケルンバでガンバルンバ」など滋養強壮剤のCMのコピーから2語選ばれている点に注目したい。翌年89年の第6回では「24時間タタカエマスカ」が受賞しており、よく働き、よく遊ぶ時代だったことが感じられる。
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■「セクハラ」「謝長悔長」
その89年だが「セクシャル・ハラスメント」が受賞した件がよく知られている。この年に「セクハラ」が受賞した事実は、様々な記事で引用される。先日も、朝日新聞の「天声人語」でこのエピソードが引用されていた。
ここでの受賞理由は「西船橋転落事件」の判決が出たことと関係している。酒に酔った男性がしつこく女性にからみ、避けようとした女性がはずみで酔漢を転落死させてしまったものだが、その背景にある「女性軽視」の視点が指摘された裁判だった。なお、この裁判は日本初のセクハラ裁判ではないことをお含みおき頂きたい。
90年代に入り、バブル経済が崩壊する。今では忘れられているかと思うが、「謝長悔長」(しゃちょうかいちょう)が92年に表現部門・銅賞を受賞している点にも注目したい。バブル経済の放漫経営で、あちこちの企業において経営トップが頭を下げたことを表現したものだ。「今ではまったく使われていない言葉だ。
「就職氷河期」は94年に審査員特選造語賞を受賞している。なお、同年に同じ部門賞を小林よしのり氏の「ゴーマニズム」が受賞している。