フィリピンは日本人犯罪者の天国? 「ルフィ引き渡し」に外交上重要な点がある
【舛添要一『国際政治の表と裏』】ルフィを名乗る男らが起こした連続強盗事件。容疑者たちがいたのはフィリピンの収容所だ。じつは同国、日本にとっては重要な国で…。
■陽気なラテン気質のいい加減さ
フィリピンは16世紀にスペイン領となり、2世紀半にわたってスペインに統治された。その後、1898年の米西戦争の結果、フィリピンはアメリカの植民地となった。第二次世界大戦後の1946年に独立国となっている。
フィリピンに行くと、スペインの影響が色濃く残っている。陽気でノンビリした気質は、まさにラテンである。スペイン、ポルトガル、イタリア、フランスといった南ヨーロッパ諸国がラテンで、宗教はカトリックである。大航海時代にスペインやポルトガルが征服した中南米諸国にも、同じようなラテンの特質を見て取ることができる。
スカンジナビア諸国、ドイツ、イギリスなどの北ヨーロッパは、ラテンの南ヨーロッパとは対極的で、質実剛健、宗教はプロテスタントが多い。若い頃にフランスやイタリアにいた私は、フィリピンのラテン気質の雰囲気にすぐ溶け込んだものである。
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■フィリピンにとって日本は「最大の援助国」
日本の外務省の資料によると、フィリピンに対する日本の援助は、①円借款が3兆1,185.00億円(2019年までの累計。うち2019年度44.09億円)、②無償資金協力が3,031.23億円(2019年までの累計。うち2019年度9.78億円)、③技術協力の実績が2,603.38億円(2019年までの累計。うち2019年度86.71億円)である。
先述したように、フィリピンにとって日本は最大の援助供与国なのである。インフラ整備、離島支援、自然災害対策、人材育成、保健医療体制強化など、様々な分野で支援を続けている。
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■中国を牽制するために巡視船を供与
なぜ、ここまで援助するのか。南シナ海において、中国が覇権を確立しようとして、無人島に人口工作物を設置するなど実効支配を強めている。そのような中で、中国を牽制するために、この地域で価値観を同じくする民主主義国家としてフィリピンが重要だからである。
昨年5月には、日本がフィリピンに大型の巡視船を供与しており、フィリピン沿岸警備隊は、さらに5隻の大型巡視船の供与を求めるという。マルコス大統領の訪日時にそのような支援を要請すると思われるが、それだけにフィリピン当局は容疑者の引き渡しを急ぐと思う。
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■執筆者プロフィール
Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。
今週は、「日本とフィリピンの関係性」をテーマにお届けしました。
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(文・舛添要一)