日韓関係の未来は変わるか? 「徴用工賠償問題」を理解するための基礎知識

【舛添要一『国際政治の表と裏』】16日に来日して岸田文雄総理と首脳会談に臨む韓国・尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領。次世代の日韓関係は作れるのか。

2023/03/12 04:45

文在寅(ムン・ジェイン)政権下で日韓関係は最悪の状態に陥った。それは、文在寅政権が支持率を上げる安易な方法として日本叩きを行ったからである。日本の植民地支配で苦労させられた過去について言及し、国民の不満を日本攻撃に向かわせたのである。

都知事時代に姉妹都市であるソウルを訪ね、朴槿恵(パク・クネ)大統領とも会談したりして、日韓関係の改善のために努力してきた私も、文在寅政権の反日姿勢には手の打ちようがなかった。そして、それは両国の経済にもマイナスの影響を及ぼしたのである。

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■徴用工問題とは何か?

現在の日韓対立の直接的な原因は元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)問題である。

韓国人は、1910年の日韓併合以来「半島人」がすべて強制連行されたようなイメージを持っているが、朝鮮半島からの労働者動員は1939年7月~45年4月に行われたのであり、それ以前は自由意思による出稼ぎである。つまり、今世界中で行われている労働移民と同じである。

しかも、動員についても、①民間企業による募集、②官斡旋、③徴用とあり、③は44年9月から8ヶ月のみである。何か、戦前の朝鮮半島出身は弾圧ばかりされていたというのは大きな誤解である。それは、故郷での私の歴史研究でも明らかである。


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■父の選挙ポスターが証明する「事実」

選挙ポスター・舛添弥次郎

実は、「戦前の在日朝鮮人」には、選挙権も被選挙権もあったのである。私の父の戦前の選挙ビラにハングルのルビがふってある理由を調査したが、多くの日本人が、そしてほとんどの韓国人が知らない歴史的事実が浮かび上がってきた。

私の父、舛添弥次郎が立候補したのは、普通選挙法(1925年)1回目の若松市(福岡県)議会選挙である。若松港は、日本最大の石炭積み出し港であり、活気にあふれ、多くの朝鮮人が出稼ぎに来ていた。

当時は、25歳以上の「帝国臣民タル男子」で、衆議院議員については1年以上、地方議会議員については2年以上同一市町村に居住する者は、日本人も在日朝鮮人も、選挙権も被選挙権(参院は30歳以上)も付与されたのである。

若松市議会選挙に立候補した父がハングルの選挙ビラを準備したのは、日本語を読めない朝鮮人有権者の便宜を考えてのことであった。実は、彼らは日本語のみならず、朝鮮語でも投票することができたのである。


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■1965年の「日韓基本条約」

太平洋戦争は日本の敗戦で終わり、朝鮮半島は独立した。1965年6月には、日韓基本条約が結ばれ、両国間の請求権の完全かつ最終的な解決が図られた。日本側は、経済協力金として、無償3億ドル、有償2億ドル、民間借款3億ドル以上を供与・融資を行い、韓国側は対日請求権を放棄した。

日本政府は、無償の3億ドルは、徴用工などの個人からの請求への支払いに使うべきだと主張した。韓国政府は、ごく一部はそれを実行したものの、3億ドルの95%は経済発展に使ったのである。それは、貧しい韓国が経済的に「離陸」することを優先したからである。


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■韓国司法の判断

1965年の基本条約によって、損害を被った個人の請求権が消滅するものではなく、それは参議院予算委員会における外務省局長答弁でも「存在し得るものである」と明言されている(1991年8月27日)。ただ、その請求権には、日本政府ではなく韓国政府が対応すべきだという取り決めなのである。したがって、そもそも個人の請求権は消滅したのではなく、その請求先が日本政府ではなく、韓国政府だということなのである。

しかも、徴用工訴訟は日本政府ではなく、日本企業を相手取っているので、その訴訟が無効だというわけにはいかない。2012年5月23日に、韓国の大法院は、三菱重工と新日鉄に対する損害賠償請求を認める判断をした。これ以降、韓国各地の地方裁判所で、同様な趣旨の判決が続いていたが、2018年10月30日には、大法院は、新日鉄(現日本製鉄)に対し、原告4人に1人当たり1億ウォン(約920万円)の支払いを命じている。

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■韓国政府の提案

一方、日本政府は、この判決に対して「日韓請求権協定で解決済み」であり、国際法違反だとして強く反発している。このように、両国の主張がかみ合わないなかで、3月6日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、解決策として、韓国の財団が賠償を肩代わりする案を提示した。これは、日本側の立場も配慮した内容となっているのである。そして、韓国政府は、日本側の謝罪や日本企業による財団への自発的な寄付を期待している。

日本政府は、2019年に厳しくした韓国に対する輸出管理措置を緩和する意向である。また、日韓の財界が協力して、若い世代のための「未来青年基金」を創設し、留学生への奨学金の支給などを行う案も考えられている。韓国のK-popや日本のアニメへの関心を見ても、両国の若い世代間の相互交流には期待が持てる。

今後の日韓関係の改善に期待したい。


■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「日韓関係の過去と未来」をテーマにお届けしました。

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(文・舛添要一

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