福島原発の処理水問題 “対外宣伝下手”な日本は「安全性」をさらに発信すべきだ
【舛添要一『国際政治の表と裏』】韓国・尹錫悦大統領が就任して以降、日韓関係に明るい兆しが見えてきた。そんな中、福島原発の処理水問題がクローズアップされ…。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領のイニシアティブによって、日韓関係改善への取組が始まっている。3月には大統領が訪日したが、5月7日には、シャトル外交を開始するということで岸田文雄首相が訪韓し、また首脳会談が行われた。
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■シャトル外交の開始
韓国に対する輸出規制の緩和など、様々な問題が議論されたが、その中でも福島第一原子力発電所の処理水問題がクローズアップされたことは多くの日本人にとっては驚きだったであろう。
実は、私も韓国のマスコミに取材を受け、徴用工問題などと並んで、この問題についても見解を求められたので、処理水が韓国内で大きな関心を持たれていることを再認識させられたのである。
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■福島第一原発事故のインパクト
2011年3月11日の東日本大震災で福島第一原子力発電所が大事故を起こしたことは記憶に新しい。1986年4月のチェルノブイリ原発事故以来の深刻な事故で、炉心融解(メルトダウン)という事態になった。
今年の4月15日にドイツは全ての原発を停止したが、その政策の発端はこの事故である。福島第一原発事故を受けて、当時のメルケル政権は、その時点で稼働していた17基の原発のうち、古い原発7基と事故停止中の1基を稼働停止にし、残り9基も2022年末までに段階的に廃炉にする方針を決めた。ところが、ウクライナ戦争によって電力危機が生じたため、実施時期が昨年末から今年の春まで延期されたのである。
福島では、事故によって、放射性物質が広く放出されたが、その後、除染が進み、帰還困難地域も少しずつ減少している。今は、廃炉作業が行われているが、完了は20〜30年後になると見られている。
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■汚染水と処理水
原子炉の中には核燃料(燃料デブリ)があり、これを常に水で冷却しているが、原子炉建屋には雨水や地下水も流入するため、冷却に必要以上の水が溜まってしまう。放射性物質で汚染されたこの水をどこに、そしてどのようにして捨てるかが問題なのである。
そこで、先ずはこの汚染水から放射性物質を多核種除去設備(ALPS、アルプス)を使って除去する。セシウム、ストロンチウム、ヨウ素、コバルトなど、ほとんどが除去できるが、トリチウムは除去できない。ALPSで処理した後の水(これを処理水と呼び、汚染水とは呼ばないようにしている)は、トリチウム濃度を1リットルあたり1500ベクレル未満まで海水に薄めてから放出される予定だが、これは国の安全基準の40分の1であり、WHOの飲料水水質ガイドラインの7分の1である。
IAEA(国際原子力機関)も、処理水の海洋放出は科学的根拠に基づくものであり、国際慣行に沿うものと評価している。