福島原発の処理水問題 “対外宣伝下手”な日本は「安全性」をさらに発信すべきだ
【舛添要一『国際政治の表と裏』】韓国・尹錫悦大統領が就任して以降、日韓関係に明るい兆しが見えてきた。そんな中、福島原発の処理水問題がクローズアップされ…。
■トリチウムとは?
トリチウム(三重水素)は水素の一種で放射線を出す放射性元素。自然界にも存在するが、原発の運転や核実験によっても生じる。トリチウムは、酸素と結びついたトリチウム水として、海水、淡水のほか、雨水や水道水などに普通に存在しているし、われわれの体内にも常に数十ベクレルのトリチウムが存在している。
トリチウムの人体への健康影響は、セシウムの約700分の1であり、食品については影響の考慮は不必要なので、食品の基準値の規制対象にはなっていない。
人や魚介類に取り込まれたトリチウムは、水と同様に速やかに対外に排出され、体内に蓄積されたり、濃縮されたりはしない。
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■処理水貯蔵タンク
処理水は、約1000基の貯蔵タンクに保管されるが、全容量は137万㎥である。東京ドームに水を貯めると124万㎥なので、その量の多さが想像できる。
2023年2月現在で、既に132万㎥メートルまで埋まっている。つまり、96%であり、今年の夏〜秋頃には満杯になると見られている。1日に140㎥の処理水が発生するので、そういう計算になるのである。当初は、先述したように、地下水や雨水の流入で、1日に発生する汚染水の量は約500㎥に昇っていたが、それが、様々な対策を講じた結果、今では約5分の1に減っている。
ただ、発生する量よりも多くの量を排出しなければ、保管タンクの容量を超えてしまうことになる。しかし、一気に大量の排出はせずに、少しずつ流していくことになるという。
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■情報発信の必要性
日本政府は、以上のような安全への取組を行っているが、韓国や中国などはまだ懸念を捨て切れていない。それが、風評被害にも繋がっている。
以上に説明してきたような内容を、政府はもっと内外に発信し、PRに努めるべきである。英語のみならず、中国語、ハングルなどで懇切丁寧に説明するとよい。今は、SNSの活用が効果的であり、図やグラフを使って、多くの人が理解しやすいようにする必要がある。
日本は、対外宣伝が下手である。役人のセンスでは無理である。民間も含めて広く人材を集め、情報発信能力を高めるべきではないか。
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■執筆者プロフィール
Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。
今週は、「福島原発の処理水」をテーマにお届けしました。
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(文・舛添要一)