自衛隊小銃乱射事件は起きるべくして起きた 元第10師団内レンジャー教官が明かす募集難の苦しい実状

日野基本射撃場の銃乱射事件はなぜ起こったのだろうか。当該の第10師団内普通科連隊で幹部を務めた筆者が明らかにする。

2023/06/15 13:40


陸上自衛隊

14日、陸上自衛隊日野基本射撃場で発生した陸上自衛隊創隊以来最大級の実弾乱射事件。緻密な計画のもと、しっかりとした安全管理の上で行われる自衛隊の実弾射撃で、なぜこのような悲劇が起きてしまったのだろうか。



■独特の緊張感が漂う射撃場

まず、本件に限らず、自衛隊の射撃訓練で誤射というのは非常に起きづらい。少しでも銃口が他方に向くだけで、付きっきりで監督している射撃係、安全係という経験豊富な隊員(下士官たる陸曹)が厳しく指導するためだ。

そもそも、狙うのは200m先などの的だ。銃の角度は常に的に向かって同一。

さらに、射撃位置までは基本的に片手で銃、片手で弾薬入り弾倉を入れたカゴを保持しているため、カゴを置き、弾倉を付けて構えて安全装置を解いて射撃するまでに、一人が油断していたとしても、十分に制止する時間がある。

監視を怠らなければ、犯行の実行は困難である。

また、射撃場は独特の緊張感が漂っている。新隊員教育隊の班長や、班付といわれる陸士長(上等兵)や射場指揮官や射撃係幹部という幹部自衛官が目を光らせているため、その場で「よからぬこと」は思いつく余裕があるとは考えづらい。


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■不測事態を減らしている

新隊員教育では常に今回の事態を想定している。彼らは入隊後間もない、見習い隊員たちである。中には、3月の入隊直前の2月の第6次募集などで入ってきた、自衛隊に入りたくて入ってきたわけではないような新隊員も多い。

乱暴に言えば、使命感や責任感はさほどなく、日々厳しい指導を受ける自衛隊の生活においてストレスが溜まり、指導部や同期に恨みを抱えている者も多い。彼らに銃と実弾を渡した結果このようなことになるのは想定の範囲内ではある。

そのため自衛隊では、各訓練ごとに起こり得るリスクを列挙して、安全管理計画を計画書の中に盛り込む。安全管理チェックリストというものも作って、不測事態をできるだけ減らしている。

「自衛隊には不測事態などない。全部予測事態であれ」という幹部自衛官もいるほど。

警務隊や警察の捜査で明らかになってきたが、男は死亡した52歳の隊員に恨みを抱えており、計画的に犯行に及んだと報じられている。なぜ緻密な安全管理計画のもと、実弾射撃場という緊張感のある現場で事件は起きたのか。


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■現場の怠慢は確実にある

筆者は現場の動きが悪かったと考える。日野射撃場で射撃をしたことがあるが、弾薬交付所から射撃位置まではさほど遠くなく、射撃姿勢を取るまでは弾倉を込めることもない。

射撃位置で銃を構えるまでは、僅かに変な動きをしたとしても、弾が込めてある弾倉は右手のカゴに入っているため余裕を持って制止することができる。

つまり、確実に横に数名の陸曹がいたが、油断して目を離していたのではないだろうか。その隙に男が銃口を他方に向け発砲したことは想像に難くない。


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■昨今の新隊員の質の低下

報道をきっかけにメンタルケアの処置対策を強化する可能性も大いにあるが、本質はそこではなく、待遇の悪さや新隊員の質の低下だと考える。

筆者は実際に第10師団内の普通科連隊で幹部を務め、新隊員教育に携わる幹部から「新隊員の質が下がってきている」と苦しい実情をよく聞いていた。

募集難に喘ぐ全国の地方協力本部は、入隊直前まで第6次募集などをやっていたが、それでも目標採用人数にはほど遠かった。

そんな状況で入隊した自衛官候補生に質を求めるのも無理な話である。同じ第10師団内の別の新隊員教育隊でも、昨年に新隊員同士の暴行事件が起こり、新隊員が処分を受けている。

また、沢山の新隊員と話してきたが、自衛隊に入りたいという入隊動機の者はほとんどいなかった。何となく、お金が無かった、警察消防に落ちたといった理由ばかりであった。

メンタルケアを重視することも大切だが、本質的な問題の解決のため、政府には自衛官の処遇改善を急いでもらいたい。質が低下しているのは給与を含む劣悪な待遇に起因し、そこの根治を図らねば諸問題は解決しない。

陸士から陸上総隊の優秀な幹部まで大量離職ラッシュを迎えているが、自衛隊に残された時間は少ないだろう。


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■執筆者プロフィール

安丸仁史(やすまるひとし):1994年福岡生まれ、福岡育ち。防衛大学校(人文・社会科学専攻)中退後、西南学院大学文学部外国語学科卒業。 2017年陸上自衛隊に幹部候補生として入隊。

職種は普通科で、小銃小隊長や迫撃砲小隊長、通訳などを務める。元レンジャー教官。自称お祭り系インスタグラマー。お祭りとパンクロックをこよなく愛する。

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(取材・文/Sirabee 編集部・安丸仁史

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