ロシア国内でワグネルが反乱 プーチン体制の行く末を舛添要一氏が緊急分析
【舛添要一『国際政治の表と裏』】ロシア国内で準軍事組織・ワグネルによって発生クーデター。今回は緊急寄稿である。
ロシアの民間軍事会社ワグネルのエフゲニー・プリゴジン代表は、ロシア南部ロストフ州で飛行場と軍事施設を支配下に置いたと表明した。
■「反乱」の経過
じつは、前日の23日に、プリゴジンは、ワグネルの部隊がロシア軍に攻撃されたとので報復すると、SNSで主張していた。
そして、今日の未明には、ワグネルの戦闘員がロストフ州に入ったと投稿し、「邪魔する者は全て排除する」と宣言したのである。
プリゴジンは、いつもSNSを使って自分の主張を全世界に流しており、添付される動画や写真も含めて、その信憑性については、私は慎重に判断してきた。それだけに、実際にプリゴジンが主張を行動に移したので、驚いている。
今日のお昼前に、ゴルベフ・ロストフ州知事は、市民に対して外出しないように呼びかけた。これで、実際にワグネルがロシア軍に対して反撃に出たということが確認されたのである。
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■プーチン大統領の対応
これに対して、その3時間後の15時頃(日本時間)、ロシア国防省は、「ワグネルの戦闘員に訴える」として、「プリゴジンの犯罪と武装反乱に参加しないように」呼びかけた。
「多くの同志が既に誤りに気づいて、持ち場に戻りたい」として支援を求めているとした。そして、従順に戻ってくれば、身の安全は保証するとも述べた。
さらに、今日、プリゴジンと親しいセルゲイ・スロヴィキン上級大将(昨年10月にウクライナ特別軍事作戦総司令官に任命、今年の1月に副司令官に降格)は、「ロシア大統領の意思と命令に従え、持ち場に戻れ」とSNSで訴えた。
16時頃、プーチン大統領は緊急にテレビ演説を行い、プリゴジンが反乱を呼びかけた疑いがあるとして、治安当局が捜査に乗り出したとし、ワグネルの行為を「裏切り」だと断言した。
そして、祖国を脅威から守るためにロシア軍に対して断固たる措置をとるように指示したと述べた。FSB(ロシア連邦保安庁、KGBの後継組織)は、すでに捜査に着手している。
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■プリゴジンはなぜ「反乱」したのか
プリゴジンは、1991年のソ連邦崩壊後、エリツィン政権下で国営企業の民営化などの過程で富裕層にのし上がったオリガルヒの1人である。
スーパーマーケットや高級レストランなども経営し、同じサンクトペテルブルク出身だということで、プーチンも彼のレストランによく食事に来ていた。そこで「プーチンの料理人」と呼ばれるようになった。
2014年には民間軍事会社ワグネルを立ち上げ、アフリカなど世界の紛争地に戦闘員を派遣してきた。ウクライナ侵攻でも、ロシアのために戦闘に参加した。
しかし、そのようなプリゴジンの努力にも拘わらず、NATO軍の支援を受けて最新兵器で武装したウクライナ軍の反撃にあい、戦況はロシアに不利に展開していった。
プリゴジンは、ワグネルが苦戦を強いられているのに、ロシア軍は武器弾薬の補給する満足にしてくれないと不満を募らせてきた。
そして、この5月初めには、ロシア軍幹部を厳しく批判し、ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長を呼び捨てにして非難した。
真偽のほどは分からないが、ロシア軍が仲間である自分たちを攻撃したとして、遂に堪忍袋の緒が切れる状況になり、「反乱」に至ったのである。