【舛添要一連載】悪化の一途たどる「イスラエル・ガザ戦争」、どうすれば停戦は可能なのか?
【国際政治の表と裏】世界を揺るがす2つの戦争。ウクライナもイスラエルも、置かれた状況は悪化する一方である。
2024年は戦火で覆われた1年であった。ウクライナ戦争は、来年2月で2年が経過するが、停戦の見通しは立っていない。また今年10月にハマスの奇襲攻撃によって起こったイスラエルとの戦争も年を越しそうである。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアに勝利し、奪われた領土を奪還するまで闘うという。イスラエルのネタニヤフ首相も、ハマスを殲滅するまで闘うと明言する。
戦争指導者としては当然の主張であるが、彼らの希望は実現できるのであろうか。
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■「ウクライナ疲れ」が顕著に
まずウクライナであるが、半年前に始めた反転攻勢は期待したような成果を上げていない。
ロシアは兵員を増強し、東南部での戦闘力を強化しているのみならず、首都キーウなどへの無人機やミサイルでの攻撃を頻繁に行っている。また、ウクライナは制空権を確保できておらず、NATOから供与されるF16戦闘機も、パイロットの英語学習から始めるという状態であり、実戦配備が遅れている。
欧米諸国では、ウクライナに対する「支援疲れ」が目立ち始めており、スロバキア、ハンガリー、ポーランドなどで支援の見直しを求める流れが加速化されている。
しかも、ウクライナでは相変わらず汚職が蔓延しており、そのことも西側諸国でウクライナ支援に否定的な意見を強めている。
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■世界の関心は中東に
それに加えて、ガザを巡る中東情勢の急変は、世界の関心をウクライナから遠ざけている。連日のマスコミ報道でも、主流は中東であり、ウクライナについての言及が減っている。
そのことは、ユダヤ人の影響力が大きく、イスラエルロビーが政治に大きな力を発揮するアメリカにおいて顕著である。とくに、下院は共和党が牛耳っているが、上院でも、12月6日にはウクライナへの軍事支援を含む1060億ドル(約15兆6千億円)の大型支出法案の審議を進めることが、51対49で否決されている。このため、ウクライナ支援予算が年末までには枯渇する。
ウクライナの命綱は、NATOからの軍事支援であり、それが無くなればお手上げである。
一方、プーチン大統領は、来年3月のロシア大統領選挙に出馬することを明らかにした。選挙で圧勝するためには、軍事的成果を上げる必要があり、戦場での攻勢を強めるであろう。
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■エジプトの仲介案
ガザでは、北部をほぼ制圧したイスラエル軍が、南部での戦闘に力を注いでいる。イスラエル軍によれば、この戦闘には数ヶ月が必要だという。
ハマスが張り巡らせた地下トンネルが次々と破壊されているが、イスラエル軍はハマス指導者の殺害と組織の壊滅までは武器を置くことはないだろう。
24日には、エジプトが停戦を仲介する努力を続けていると報じられた。それによれば、まず、戦闘を2週間停止し、ハマスが人質40人を、イスラエルがパレスチナ人拘束者120人を解放する。次に、ヨルダン川西岸とガザの分断を解消するために、「パレスチナ国民協議」を開き、統一政権を作るという。
現在は、ヨルダン川西岸は穏健派のアッバス大統領が統治しているが、これに反発する過激派のハマスがガザを支配してきた。この対立を解消しようというのであるが、ハマスは反対する。つまり、エジプト案はハマス壊滅を前提としているように見える。
エジプト案による第三段階は、人質全員とそれに見合うパレスチナ人拘束者の解放、包括な停戦、イスラエル軍のガザからの撤退である。
しかしながら、この仲介案が実現するには乗り越えねばならないハードルが多い。
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■戦争の中東への拡大を懸念
12月26日、イスラエルのガラント国防相は、ハマスのみならず、レバノン、シリア、ヨルダン川西岸、イラク、イエメン、イランと戦争状態にあるとして、これらの地域で対応し、行動を起こしていると述べた。
レバノンのヒズボラはイスラエルを越境攻撃し、これにイスラエルは報復している。またイエメンのフーシ派は、イスラエルのみならず、紅海を航行する船舶をドローンやミサイルで攻撃している。そして、これらシーア派の過激派の背後にはイランがいる。
イランは、イスラエルやアメリカと対立を深めており、シリアでイラン革命防衛隊のムサビ上級軍事顧問がイスラエルに攻撃されたことに対して報復を宣言した。戦火の中東全体への拡大を危惧する。
ガザでの戦闘は、数ヶ月は続くという。つまり、早期の停戦の見通しは立ってない。
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■執筆者プロフィール
Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。
今週は、「2つの戦争」をテーマにお届けしました。
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(文/舛添要一)