【舛添要一連載】バイデン米大統領の一般教書演説、対するトランプは「最悪の演説」と猛批判

【国際政治の表と裏】一般教書演説が“成功”し支持率上げるバイデン米大統領。ライバルであるトランプが黙っているはずもなく…。

2024/03/17 06:00


ジョー・バイデン大統領

3月7日、アメリカのバイデン大統領が一般教書演説を行った。大統領選挙の年とあって、バイデンはトランプ前大統領を痛烈に批判した。

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■アメリカ憲法の規定

アメリカ合衆国憲法の第2条、第3節に「大統領は、随時、連邦議会に連邦の状況に関する情報(information of the state of the union)を与え、必要かつ適切と考える方策を審議するように勧告するものとする」と記してある。これに基づいて、大統領は1年に1回、連邦議会で演説する。これが一般教書演説(State of the Union Address)である。

下院議場に、大統領、上下両院議員、最高裁判所判事、つまり、行政、立法、司法の三権の代表が一堂に会するが、そのような機会は、国葬と大統領就任式を除けば、他にない。

日本やイギリスのような議院内閣制と違って、大統領制のアメリカでは、三権分立が徹底しており、大統領は立法府の議会に自由に出入りすることはできず、議場では下院議長の指示に従わなければならない。

演説は、賛成派の議員は拍手するが、反対派の議員は野次などを飛ばさないことになっている。今回のバイデン演説でも、民主党の議員は拍手喝采したが、共和党の議員は沈黙を守った。これが、伝統となっている礼儀である。


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■バイデンの一般教書演説

今年のバイデンの一般教書演説は、自らの政策の称賛と、トランプ前大統領の批判に終始した。トランプの名前は一度も口にせず、「私の前任者」という呼び方で、たとえば、「前の大統領はプーチンに『好きなようにすればいい』と言った。言語道断で危険なことだし、容認することはできない」と攻撃した。

そして、プーチンやトランプを念頭に置いて、「自由と民主主義が、国内と海外で同時に攻撃を受けている」として、「今、私と同世代のほかの人々の中には恨みや復讐、報復といった異なる物語を見ている人がいる。私とは違う。憎しみや怒り、復讐、報復は古い考え方だ。私たちを後戻りさせるだけの古い考え方でアメリカを率いることはできない」と批判した。

また、自らの経済政策を「私が大統領職を引き継いだとき、経済は瀬戸際の状況だった。しかし、わが国の経済はいま世界から羨望の眼差しで見られている。わずか3年で1500万人の新たな雇用を生み出した」と自画自賛した。


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■トランプの反撃

このバイデン演説に対して、トランプは「最も怒りに満ち、同情心に欠けた最悪の一般教書演説かもしれない」と批判したが、その指摘は反対派が静かに演説を聴くという礼儀からすればもっともかもしれない。トランプは、「バイデンは、彼自身と彼の政党がもたらしたぞっとするような破滅状態に対する責任から、嘘をつくことで逃れようとしている」と述べ、「いかさまバイデン、おまえはクビだ」と反撃した。

また、「プーチンがウクライナに侵攻したのは、バイデンに敬意を抱かなかったためだ。トランプ政権のもとでは起こりえなかった」として、NATOを強化したのはバイデンではなく「私が加盟国にもっとカネを支払わせるようにしたからだ」と反論した。

さらに、大統領選の焦点となる移民問題については、「バイデンは移民問題や史上最悪の国境問題にほとんど触れなかった。彼は、わが国を移民であふれかえらせたいのだ」と批判した。


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■今後の展開

今回の68分間の演説では、バイデンは言い間違いもなく、力強く語っており、3220万人が視聴した。演説後の世論調査では支持率が上昇し、演説後の24時間に1000万ドル(15億円)を超える選挙資金が集まったという。その意味では、一般教書演説は成功だったと言えよう。

今年の大統領選挙は、バイデンvsトランプの老々対決となることは必至である。エマーソン大学は3月5、6日に世論調査を行ったが、両者とも支持率は45%で同率であった。この調査は、バイデン大統領の一般教書演説前に行われたものであり、演説の効果は反映されていない。

今後も、両者の舌戦は続いていくであろうが、大統領選の結果は世界の平和に大きな影響を与える。ウクライナ戦争もガザでの戦闘も、その帰趨は、どちらが大統領に選ばれるかによって変わってくる。民主主義の未来はアメリカ国民の選択にかかっていると言っても過言ではない。


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■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「アメリカ大統領の一般教書演説」をテーマにお届けしました。

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(文/舛添要一

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