【舛添要一連載】143人殺害の「モスクワテロ」、イスラム過激派がロシアを標的にした理由

【国際政治の表と裏】イスラム過激派「IS」がロシアに恨みを抱くに至った経緯を、改めて振り返る。

2024/03/31 05:00

アフガニスタン

3月22日、モスクワ郊外のクラスノゴルスク市のコンサートホールに武装したテロリストが侵入し、銃撃して143人を殺害し、180名以上を負傷させた。また、その後火災が発生し、建物が炎上した。

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■アメリカは事前に情報入手

イスラム過激派のIS(Islamic State、イスラム国)と関係のある「アマーク通信」は、今回のテロ事件がISの戦闘員によるもので、「ロシア人キリスト教徒への攻撃だ」と伝えている。

実行犯4人はタジキスタン人であるが、タジキスタンは旧ソ連邦で最貧国である。それだけに、生活苦からISに走る若者が多い。

アメリカは、事前にテロ情報を入手し、ロシア政府に伝えるとともに、在露のアメリカ人にコンサートなどの大規模イベントに参加しないように警告していた。

しかし、ロシアはこれを真に受けず、アメリカの警告を「ロシア社会を不安定にする挑発だ」と反発していた。アメリカの情報を有効に活用しなかったプーチン政権への批判が今後強まるであろう。


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■ISはいつ、どこで生まれたのか

ビンラディンに率いられるアルカイダは、2001年9月11日にアメリカ同時多発テロを行った。アメリカのブッシュ政権はアフガニスタンに対して、ビンラディンの身柄を引き渡すように要請したが、タリバンが拒否したため、10月にアフガンスタンへ侵攻し、タリバン政権を壊滅させた。

ブッシュ政権は、2002年1月の一般教書演説で、イラン、イラク、北朝鮮は大量破壊兵器を所有するテロ支援国家であると非難し、「悪の枢軸」と呼んだ。

2003年3月20日、アメリカを中心とする西側諸国はイラクに侵攻し、サダム・フセイン体制を倒した。この後、欧米に対抗するためにアルカイダ系のイスラム教スンニ派の過激派が結成されたが、これがISの起源である。

2010年12月には、チュニジアで民主化を求める運動「ジャスミン革命」が起こり、それは、他のアラブ諸国にも広がり、「アラブの春」となった。


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■シリア内戦

シリアでも、40年にわたるアサド家の独裁に対する国民の不満が爆発し、2011年に抗議運動が起こった。シーア派の政権によって虐げられてきたスンニ派の人々が中心になり、次第に武装化、過激化していき、反政府組織の「自由シリア軍」を結成した。これに対して、アサド政権側は、ロシアやイランの支援を受けて対抗し、内戦となった。

これにISも介入したため、内戦が泥沼化し、大量の難民が発生した。国外に避難した人は660万人、国内で避難生活を送る人は670万人と、第二次大戦後、最悪の難民となった。

2015年9月30日、ロシアは、アサド政権の要請に応える形で、ISを退治するという大義名分を掲げて、9月30日に空爆を開始した。

アメリカは、2019年になると、それまでのアサド政権打倒という政策を転換して、ロシアと共にIS掃討を最優先にするとした。そして、この年の10月には、トランプ政権は、シリア北東部から米軍を撤退させると表明してシリアから実質的に手を引き、ロシアはアサド政権を継続させることに成功した。

今回のコンサートホールでテロを行ったISがロシアに恨みを抱くのは、以上のような事情があったからである。


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■欧州やアフリカでも警戒

ヨーロッパ最大級のユダヤ教、イスラム教コミュニティのあるフランスでは、昨年の10月13日、北部のアラスで高校教師がチェチェン系のイスラム教徒である卒業生に刺殺された。容疑者はイスラム過激派と関係があった。

また、ルーブル美術館やヴェルサイユ宮殿が、爆破予告を受けて、入館禁止措置をとった。さらに、パリのターミナル駅「リヨン駅」でも不審物が発見された。

ロシアでのテロ直後、3月25日には、マクロン大統領は、ISがフランス国内でもこの数ヶ月テロを企てていたことを明らかにした。夏にはパリ五輪も開催されるため、フランス全土で警戒レベルを最高水準に引き上げた。

ドイツやイギリスなど他の欧州諸国でもテロへの警戒態勢が強化されている。

また、アフリカでも北部サハラ砂漠の南の半乾燥地域(サヘル)にあるマリ、ブルキナファソ、ニジェール、ナイジェリア、チャド、スーダンなどで、ISが活動し、新型コロナウイルス流行で職を失った若者をリクルートして、勢力を拡大してきた。そのために治安が悪化し、国民の不満が高まり、過激派のテロへの対応を失敗した民主派政権が軍部によってクーデターで追放されている。

日本は地理的にも、宗教的にもISの標的になるリスクは少ないが、テロへの警戒を怠ってはならない。


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■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「イスラム国」をテーマにお届けしました。

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(文/舛添要一

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