都内パーキングに現れた警告、怖すぎる内容にギョッとした 「地面師」の足音に驚きの声
東京・新宿区の駐車場が掲出した警告文が話題。身近に潜む「地面師」の魔の手に、注目が集まっている。
■弁護士が「知らぬ間に」加担するケースも…
まずは駐車場の管理会社を通じてオーナーに取材を打診したが、残念ながら「ノーコメント」とのことで、警告の詳細については話を聞けなかった。
続いて、警視庁に「地面師」の詳細や被害状況を尋ねたところ、「警視庁においては『地面師』という言葉を用いていないため、回答しかねます」とのこと。
しかし、警視庁としても思うところがあるようで、担当者からは「詐欺等の手口は巧妙化、多様化しています。不審な電話等を受けた場合や被害の相談については、お近くの警察署にお問い合わせください」とのコメントも得られている。
相次ぐ「ノーコメント」に心が折れそうになったが、ここで出会ったのが「早稲田リーガルコモンズ法律事務所」に所属するパートナー弁護士・髙野傑その人。
刑事弁護に注力しているという髙野弁護士は、刑事司法に対する興味を持ってもらうべく、Xやnoteにて、情報を積極的に発信している。noteでは地面師に関する記事も公開しており、こちらが今回の取材協力に繋がったワケだ。
まず「地面師」の詳細について、髙野弁護士は「一般的に、不動産の所有者になりすまして売却を持ちかけ、その代金をだまし取る者、もしくはその行為自体を指す言葉です」と説明する。
「地面師」は法律上の用語ではなく、あくまで通称であり、法律上は相手を騙して金銭を騙し取る行為、即ち「詐欺罪」に該当するという。
地面師事件における詐欺行為の特徴については、「単独で行われるのは稀で、多くの場合は複数の人物が共謀して実行されます。それぞれ役割があり、最終的に騙し取ったお金も、その役割に応じて分配されているようです」と説明する。
これらは「不動産取引」であるため、騙し取られる金額も当然、極めて高額となる。こうした点を踏まえ、髙野弁護士は「そのため、もし地面師として起訴されて有罪判決が下されれば、基本的には実刑判決、即ち刑務所に入る判決となることになります」とも説明していた。
さらに地面師の恐ろしい点が、地面師同士で「独自のコミュニティ」が形成されている点。
髙野弁護士は「『今、◯◯は××の物件を扱っている』といった情報が共有されているらしく、同じ不動産が詐欺の対象とならないようにしているようです。基本的には物件を見つけた人物の『早い者勝ち』という認識のようですが、もし先に着手していたグループが何らかの理由で実行を断念した場合、それまでに用意されていた偽造書類等を別グループが購入し、引き継ぐようなこともあるようです」と、補足している。
さらには「このようなコミュニティでは、仕事が雑な弁護士や司法書士の情報も流れているようで、そうした人物を仲間として引き入れたり、土地に関する本人確認等をそうした弁護士らに担当させたり、計画の完遂を容易にするために利用することもあるようです」と、恐ろしい事例も飛び出した。
「真に恐れるべきは有能な敵ではなく、無能な味方である」という格言は、やはり正しかったのかもしれない。
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■「土地を持ってないから関係ない」は危険?
近年における代表的な地面師事件の判例について、髙野弁護士は「最も有名であり社会を賑わせたのは、ドラマの元ネタでもある積水ハウスが被害者となった事件(2017年)でしょうか」「また、東京都渋谷区富ケ谷の土地が対象となった事件(2021年)もあります。弁護士が地面師と組んでいた疑いが持たれていました」と、例を挙げる。
地面師だけに限らず、詐欺というのは後から第三者が見ると「なぜそんな方法で騙されるの?」と感じてしまうほど、手口が杜撰なケースも珍しくない。
こうした事例について、髙野弁護士は「そこはやはりプロの詐欺師。現場での雰囲気づくりが上手いのでしょう。現に、騙されてしまう人がいるから事件になるわけです」と、頷いてみせる。
言うまでもなく、地面師がターゲットにするのは、土地を所有している人物。そのため「そんなに価値のある土地を持っていない」「そもそも土地を持っていない」といった理由から、地面師事件を「他人事」と感じている人も多いのではないだろうか。
地面師のターゲット問題について、髙野弁護士は「地面師詐欺のスタートは、グループのひとりが騙すために利用する不動産を見つけてくるところから始まります。地面師たちは、土地の所有者になりすまして金銭を騙し取るわけですから、本物の所有者と、騙そうとしている相手や自分たちが接触してしまうケースをとても警戒します」「そのため、地面師たちが見つけてくる不動産は、そのようなリスクが低い物件ということになります。典型的なものは、所有者がその土地の近くに住んでいないケースや、入院や施設に入っているなどの理由で外を出歩く可能性が低いようなケースです」と説明。
加えて、「もし、ご自身やご家族がそのような状況にある場合には、注意したほうが良いかもしれません」と呼びかけていた。そう、自分だけでなく「親族」が地面師の被害に遭うケースも十分に考えられるのだ。
そしてさらに気をつけるべきなのが、自身や親族の土地を利用されたり、金銭を騙し取られたりするのではなく、「詐欺の片棒を担がされる」というケース。
髙野弁護士は「ドラマでも描写があったように、所有者になりすます役は地面師グループにとって『末端の使い捨て』と認識されており、多くの場合はグループ外から連れてこられます。その際に『契約者が体調を崩してしまったので、代わりにその場で座っていてくれれば良い』等と言われ、アルバイト感覚で手伝ってしまう人がいないとも限らないでしょう」と、例を挙げる。
本人が無自覚のまま「運び屋」として利用されるケースや、「闇バイト」を入口とする事件が多発している実情から見ても、こうしたリスクが決して低くないのは明らかだろう。
髙野弁護士は「このような方法で協力した場合、仮に詐欺が成功して金銭を騙し取れたとしても、事前に約束した報酬を払ってもらえないことも珍しくありません。報酬ゼロで犯罪に加担することになるわけです」とも補足していた。
このように、例え土地を所有していない人物でも、思わぬ形で地面師に利用され、搾取されるケースが考えられる。ドラマのブームを切っ掛けに、改めて注意喚起したい。
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■執筆者プロフィール
秋山はじめ:1989年生まれ。『Sirabee』編集部取材担当サブデスク。
新卒入社した三菱電機グループのIT企業で営業職を経験の後、ブラックすぎる編集プロダクションに入社。生と死の狭間で唯一無二のライティングスキルを会得し、退職後は未払い残業代に利息を乗せて回収に成功。以降はSirabee編集部にて、その企画力・機動力を活かして邁進中。
X(旧・ツイッター)を中心にSNSでバズった投稿に関する深掘り取材記事を、年間400件以上担当。ドン・キホーテ、ハードオフに対する造詣が深く、地元・埼玉(浦和)や、蒲田などのローカルネタにも精通。
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(取材・文/Sirabee 編集部・秋山 はじめ)